ビジネスとして見るSaaS 2008年はネットワーク効果が鍵コミュニティーリーダーが占う、2008年大予測

2008年普及のしきい値を超えそうなSaaSが注目だ。プラットフォーム製品として大きく成長するための「ネットワーク効果」の重要性が改めて見直されることになりそうだ。

» 2008年01月08日 11時08分 公開
[根来龍之,ITmedia]

 補完製品の存在をする製品をプラットフォーム製品と呼ぶ。2008年は、企業システム分野では「SaaS(Software as a Service)」が、プラットフォーム製品としてさらに大きく成長するだろう。

 ユーザーはプラットフォーム製品を選択する際、製品自身の機能だけでなく「ネットワーク効果」がもたらす便益も購入基準にする。2008年にSaaSが普及のしきい値(性質が変わる普及量)を超え、「ネットワーク効果」の重要性が見直されることになりそうだ。

「直接」と「間接」の2つがあるネットワーク効果とは?

 ネットワーク効果というのは「製品の利用者のネットワークの拡大によって増加する利用者の便益のこと」だ。古典的な例を挙げるなら、電話を考えればよい。電話はみんなが使っているから誰とでも話ができ、コミュニケーションツールとして便利なものになる。

 その便利さは電話の個々のハードが持っている機能ではなく、利用者の数が決める。1人しかもっていないならば、電話には何の効用もない。ネットワーク効果は、製品やサービスの提供者である企業が直接提供するものではないので、ネットワーク「外部性」ともいわれる。

 ネットワーク効果は「直接ネットワーク効果」と「間接ネットワーク効果」の2つに分類できる。上記の電話の例は、対象製品の利用者数の拡大が直接もたらす便益であり、直接ネットワーク効果である。これに対して、間接ネットワーク効果は、対象製品の利用者数ではなく、そのプラットフォーム製品を前提にした補完製品・サービスの種類や質が増えることで拡大する便益のことである。

 2008年にSaaSの成長を通じて見直されることになると思うのは、特に「間接ネットワーク効果」の方である。SaaSの浸透は、会計ソフトとCRMソフトという特定分野で進んできたが、2008年はERPでもSaaSの浸透が進むだろう。

 SaaSは、既存企業では切り替えコストがあるのでそう簡単には急速に浸透することはないが、新しく事業を始める会社やIT化をこれから進める中小企業にとっては意味が大きい。ERP分野のSaaSにとっては2008年が「しきい値」を超える年になるのではないだろうか。

SaaSのキーポイントは「マッシュアップ」

 SaaSは「機能」売りであること、ネット経由であること、マルチテナント(複数利用者がハードを共有)で安価に提供されるという、「ネットのあちら側の世界」としての性質ばかりが注目されているが、「マッシュアップ」の活用という側面も無視すべきでない。

 マッシュアップとは、ネット上で提供されているデータベースやソフトを組み合わせて、新しいソフトウェアやサービスを提供することを言う。マッシュアップを促進するために、SaaSベンダーは自社のソフトウェアのインタフェース(API)を公開している。

 ASPは事業者側が提供する標準的サービスをそのまま利用するしかない「プレタポルテ(既製服)」的なものだった。しかしSaaSはそのプラットフォーム上で提供される補完アプリケーションを組み合わせて、自分の企業にあったシステムを構築できる方向へと進化している。「ネットのあちら側」が「オートクチュール(注文服)」へと変化しているのである。

 既製服は安くて良いのだが、自分にぴったりのものがなかなかないというのがデメリットである。特に、日本の企業は自分の会社にあったシステムを構築することを基本方針にしてきたので、このデメリットは致命的な側面があった。SaaSプラットフォーム上に補完アプリケーションをマッシュアップさせて、自社にあったシステムを構築できる世界の進展によって、SaaSはさらに魅力を増していくだろう。

 既存パートナーとのしがらみでAPIを公開できないような、SaaSアプリケーションは間接ネットワーク効果を得られず、淘汰されていくことになる。また2008年は、SaaSに本腰を入れられないパッケージベンダーも、自己否定をしてでもSaaS戦略を急がざるを得なくなるはずである。

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