マドンナの新しい契約の意味――希少性や体験性に価値新世紀情報社会の春秋(2/2 ページ)

» 2008年04月25日 09時00分 公開
[成川泰教(NEC総研),ITmedia]
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音楽ビジネスの価値を再考するアーティスト

 アーティストたちにとって最終顧客は音楽を聴いてくれる生活者であるが、音楽会社は楽曲の流通から権利処理などさまざまな問題を担ってくれるパートナーでもある。ところがインターネット配信は一部のアーティストにとって、音楽会社のビジネスモデルとは別の可能性を示しているように映ったのである。

 昨年あたりから海外の大物音楽アーティストを中心に、インターネットの活用が新たな段階に入った。イギリスのロックグループ「Radio Head」が大手レコード会社から独立してリリースした最初のアルバムを、期間限定で自身のサイトで公開し、支払う対価をお客に自由に決めてもらうというキャンペーンを行ったことは、象徴的な出来事だった。

昨年英国の人気ロックバンド、オアシスも、新曲をネット配信限定でリリースした。

 こうしたいわばインターネット世代のアーティストたちの取り組みは、単純に「音楽は無料であるべきだ」ということではなく、何らかの条件付きで音楽を無料で配信することが、CDや有料ダウンロードなどの販売と相いれないものではない、という考えに基づいたものである。

 一方で活動の主軸を、音楽を売ることから、コンサートのようなライブ活動にシフトする動きもある。米国のマドンナが昨年秋にレコード会社との契約を満了し、新たにコンサートプロモーションを担当する会社と専属契約を結んだことは、大きな話題となった。アメリカや日本でもコンサート市場は拡大しており、アメリカでは大物アーティストの収益のかなりの部分がライブ活動から稼ぎ出される状況だという。こうした流れは、希少性や体験性に価値を見出すという近年の消費トレンドに沿った方向であることは言うまでもない。マドンナのマネジメントを担当するある人物は「昔はアルバムを売るためにツアーをやったけど、いまはライブを売るためにアルバムを出すんだよ」と語っている。

 このようにインターネットの普及に並行して、音楽のビジネスモデルは大きく変わろうとしている。ここから見えてくる今後の音楽のトレンドは、音楽流通の視点からは「無料キャンペーンを組み入れたネットワーク配信」、生活者の視点からは「個人の趣味や嗜好に基づいたコミュニティーモデル」、そしてアーティストの視点からは「希少性と体験性を売りにしたライブ演奏」、という3つの軸に沿って変化していくことになるだろう。これらが、音楽以外のさまざまなメディアやサービスのビジネスに示唆するところは大きい。

プロフィール

なりかわ・やすのり 1964年和歌山県生まれ。88年NEC入社。経営企画部門を中心にさまざまな業務に従事し、2004年より現職。デバイスからソフトウェア、サービスに至る幅広いIT市場動向の分析を手掛けている。趣味は音楽、インターネット、散歩。


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