【第3回】牛ふんもエネルギー資源として活用消費電力と闘うCIO(1/2 ページ)

エネルギーの資源不足が世界的に深刻化する今、その確保に向けて各社ともしのぎを削っている。中でも特にCIOは、データセンターの省エネ化などに向けてグリーンITの旗振り役として期待される。ユニークなアイデアが登場する一方で、取り組むべき課題も多いという。

» 2008年06月30日 11時10分 公開
[TOM KANESHIGE,ITmedia]

牛ふんから屋上緑化までエネルギー確保の手段は多彩に

 エネルギー確保に関するクリエイティブな考え方は、いまやCIO(最高情報責任者)の重要な仕事の一部となりつつある。牛のふん尿から発生するメタンガスを安価なエネルギー資源として活用することから、屋根をリトラクタブルにして風通しを良くすることまで、そのアイデアは尽きるところがない。実際、最近では冬場の冷気を“無料のエアコン”として活用する経済的なシステムも出てきた。水冷方式もここにきて再び注目を集めている。またソーラーパネルを設置して太陽光エネルギーを利用する動きも活発だ。

 カリフォルニア州ロモランドのWebホスティング会社AISO.Netでは、データセンターに導入した120台のソーラーパネルで水冷サーバを稼働させている。同社では今後、直射日光に強い植物を使ってデータセンターの屋上緑化を進め、冷暖房エネルギーを最大50%削減する計画だ。「われわれは従来から常にグリーン化を意識し、そうすべきであると考えてきた」と強調するのは、同社のCTOフィル・ネイル氏だ。同氏は、妻のシェリー・ネイル氏とともに会社の共同オーナーでもある。

 一方、ビスタ・プリントでは仮想サーバの導入に加え、カナダのウィンザーに新しいデータセンターの建設を決めた。その地を選んだ理由は、水力発電による安価な電力が利用できることだった。当初検討していたマサチューセッツ州レキシントンなどより、平方フィートあたりのエネルギーコストは60%安くなるという。「“グリーン”は、ロケーションを選択するときの重要なファクターになった」とセビュラ氏。大手ハイテク企業の間でも、安価な電力を利用できる場所へデータセンターを移す動きが出ている。報道によると、マイクロソフトとシスコが地熱発電や水力発電を利用できるアイスランドにメガ・データセンターの建設を検討しているという。グーグルはオレゴン州のコロンビア川の土手にデータセンターを建設した。また時差のある地域にデータセンターを建設し、安価な電気料金が設定されている時間帯に負荷を移動するといったテクニックも考えられた。

 リモートのロケーションに新しいデータセンターの建設を検討している中堅企業のCIOに対して、ビスタ・プリントの技術および運用担当副社長アーロン・ブランハム氏はこうアドバイスする。「もし会社にスケールメリットを期待できる十分な規模と確固たる成長計画があれば、新しいデータセンターの建設は有利な選択だ。創業間もない企業は資金的な余裕がないため、いきなりデータセンターは難しいだろう。しかし一方で、極端に小さなISPと契約すると、急成長したときにトラブルになりがちだ。一般に、20台以上のラックが必要になると分かっていれば、自前でやることも十分検討に値する」。HPのスケーラブル・データセンター・インフラ担当副社長ポール・ペレス氏によると、新しいデータセンターの構築コストは、場所にもよるが、1平方フィートあたり2500ドル前後になるという。

 安価な電力供給源の近くにデータセンターを建設することで、大幅なコストセービングが可能になる。だが一方で、通信コストや地域経済への影響、リモートエリアでの人材確保など、CIOはその他の要素についても十分考慮しなければならない。レイテンシー(遅延)の問題にも注意が必要だ。コンピュータベースの金融機関などは、レイテンシーの問題があるため、リモートのデータセンターを好まない。金融大手ワコビアのユーティリティ製品管理担当副社長ジェームズ・ヒュートン氏は、「マイクロ秒の差が明暗を分ける」と話す。ビスタ・プリントもまた、建設場所をカナダに決定する前、テクニカルサポートから自然環境、地政学的な問題にいたるまで、国境を越える懸念について慎重に検討したという。

まだまだ低い? “グリーン化”への意識と意思

 ただ、リモートのデータセンターは必ずしも“グリーン”であるとは限らない。安価なエネルギーを提供する水力発電所の近くにデータセンターを建設することが、100%環境に優しいというわけではないからだ。例えば、大きな河川をせき止めるダムは鮭の遡上を阻む。最近も環境破壊の懸念があるとして、EPAがスネーク川のダムを撤去する措置を取ったばかりだ。結局、安価なエネルギーを利用することが、エネルギーの効率化やグリーン化につながるわけではないのだ。

 一方、ほとんどのCIOはグリーン優先の意思決定は行わない。CIOの判断基準はグリーンバック(ドル紙幣)だ。フォレスタ・リサーチが北米および欧州のIT運用責任者124人を対象に実施した最近の調査でも、回答者の78%は、ITシステムおよびデバイスの評価、選択にあたり、グリーン化への取り組みを考慮していないことが分かった。もちろんCIOの目標は、事業の利益率を高めコストを削減し、会社に利益をもたらすことだ。グリーン技術の多くは十分なROIが期待できない。「純粋にエネルギー効率だけを考えたデータセンターを建設することはできない。なぜなら、われわれは営利を追求する企業だからだ」とヴィアス氏は語る。

 1つの事例を紹介しよう。サンフランシスコ・ベイエリアの企業で働くファシリティマネージャは最近、CIOの指示でソーラーパネルの導入を検討した。ところが設置する屋根の補強工事に莫大なコストがかかることが判明し、そのアイデアは断念せざるを得なかった。エネルギーコストの低下分で補強工事費をペイするまで、何年かかるか分からなかったからだ。同社では今後新しく建設するビルにソーラーパネルを設置することにした。

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