「こいつじゃ無理だ」と決めつけない――社内IT人材の育成術間違いだらけのIT経営(2/2 ページ)

» 2008年07月07日 00時15分 公開
[増岡直二郎,ITmedia]
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必死に食らいつく人は必ず育つ

 その後何年かして、筆者が製造課長から情報システム課長に配属換えになった時、ふと思いついたことがあった。当時、製造部では生産管理担当者の若返りを図ったり、さらにコンピュータによる生産管理業務の合理化が進んだりしたこともあり、何人かの年配者や評価の良くない人材が余剰人員となっていた。彼らを情報システム部門で使えないか。突飛もないアイディアに、幸いにして当時の勤労課長が興味を示してくれた。かねてからいた情報システム部門の係長たちは、さすがに戸惑っただろう。しかし、製造部門から連れてきた連中は、ここで適応しなかったら行き場所を失うとばかりに必死だった。結局、彼らはそれぞれSE、プログラマー、オペレーターとして何とか一人前に育った。

 ただし、すべてがうまく進んだわけではない。連れてきた数人の中の年配者2人は、適応することができなかった。古巣へ帰すわけにもいかない。情報システム部門に居場所を与えなければならない。庶務事務的な仕事、改善活動や工場運動の取りまとめ、課員の躾教育などに、彼らは懸命に取り組んで居場所を確保した。

 次に筆者がコンサルティングを依頼された零細企業A社の例である。

 A社はわずか10名足らずの販社である。親会社との関係でERPを導入せざるを得ない状況になった。しかし、情報システム部門などもちろんないし、コンピュータを理解する要員などまったくいない。社長に次ぐナンバー2の50代のB取締役資材部長1人が、ERP導入プロジェクトメンバーになり、ベンダーと折衝に当ることを買って出た。

 B部長はコンピュータについて知識も経験もない。B部長は必死になってベンダーにくらいついた。肝心の資材の仕事は、B部長の補助をしていた女性事務員C1人に負荷がかかった。Cも必死である。Cは資材業務で分からないことを質問するために、ERP導入準備にかかりっきりのB部長のかたわらに、最初は朝から付きっきりで離れなかった。補助業務しかしていなかったCは、急速に資材業務を身につけて行った。3カ月ほど経って、CはB部長に頼らずに1人立ちできるまでに育った。やがてB部長は、システム導入補助要員として女性事務員を採用して、教育を始めた。B部長は、彼女を一人前に育てるつもりでいる。かくして、A社のシステムは稼働を始めることができた。

 3つの例を挙げることで、これ以上余計なことを語る必要はあるまい。トップがその気になれば、あるいはキーマンが完全にコミットメントすれば、人材の問題などどうにでもなるのである。トップは、人材がいないと逡巡する必要はない。今すぐ、前を向いて動き出すべきである。

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