一方、トップはどうであろうか。日本企業のトップもこのように考えて、ミドルに対して指示を出しているのであろうか。残念なことであるが、筆者にはどうもそうには思えない。
新事業の成功には通常、どうしても時間がかかる。新商品や新サービスが画期的なものであればあるほど(こうしたものは、成功すれば特に大きな果実となることが多い)、顧客にその価値を認識してもらうことから始めなければならない。例えば、今でこそ宅配便業者として広く認知されているヤマト運輸だが、事業立ち上げ当時は、営業のビラを懸命にまくドライバーに対し、「大切な荷物を運送会社に預けるなんて。荷物は郵便局でなければ」と街行く人たちはいかがわしい視線を向けたという。
ではどうしたら価値を認めてもらえるのか。そのためには時間だけでなく、どうしても「カネ」が掛かるのである。
しかし、必要なカネを将来にわたってしっかりと手元に残しておく、最も機動的に活用できる資金として内部に留保しておくというこの段取りができている日本企業のトップはどれほどいるだろうか。人員の削減、不採算事業の整理などを通じて内部留保が積み上がっている企業は少なくない。しかしそうした企業のうち、新たな成長に向けての青写真を社内外に示し、残すべきカネは残す、それが株主を含む企業の利害関係者にとってベストな選択である、との説明ができているトップはどれほどいるのか。
ミドルが腰を据えて立ち上げにまい進できるような土台は作られているのだろうか。作られていないはずだ。
社内に向けては「新事業、新商品、新サービス」とトップは口にしているが、その視線の先は社外の株主に向けられている。目を向けて(あるいは向かざるを得なくなり)、一部の「モノ言う」株主の意向に沿ってキャッシュを社外へ流出させている。本来ならば残すべきものを。これが現状ではなかろうか。
上場企業の株主への総配分(配当金+自社株買い)は2007年度で12兆円と、過去最高の数字をたたき出した。これは純利益の5割に近い数値である*2。
こうした現状を見ると、ミドルが思うほどトップはミドルを含む従業員の利益には目を向けていないのかもしれない。立ち上げにまい進しているミドル、そしてその部下の将来の利益のために新事業は成功せねばならない、そのための土台はしっかりと責任を持って自分がつくり上げている。こう断言できるトップは少ないのかもしれない。
「何のために、新事業は成功させなければならないのか?」とミドルが問うたときに、「われわれミドルの先々の利益は、この新事業の成否にかかっている。それゆえ、是が非でも成功させねばならない」、「そのための土台はトップがしっかりと作ってくれている」。ミドルはこのような信念をもって仕事にまい進したいと願っているはずである。しかし、そうした状況を日本企業のトップはつくり出しているのだろうか。
*2 『日本経済新聞』2008年5月26日付朝刊
吉村典久(よしむら のりひさ)
和歌山大学経済学部教授
1968年奈良県生まれ。学習院大学経済学部卒。神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了。03年から04年Cass Business School, City University London客員研究員。博士(経営学)。現在、和歌山大学経済学部教授。専攻は経営戦略論、企業統治論。著作に『部長の経営学』(ちくま新書)、『日本の企業統治−神話と実態』(NTT出版)、『日本的経営の変革―持続する強みと問題点』(監訳、有斐閣)、「発言メカニズムをつうじた経営者への牽制」(同論文にて2000年、若手研究者向け経営倫理に関する懸賞論文・奨励賞受賞、日本経営倫理学会主催)など。
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企業変革には文化の共有と適切な報酬が不可欠――AutodeskのフェローCopyright© 2012 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
3月14日に国際CIO学会の新会長に就任した。すでに再任理事、監事に新任を加えて30人ぐらいの役員であるが、その中にCIO関連などICT団体を代表する方々が入っており、友人の教授からすごい組織になりましたね、と新会長就任のお祝いとと共に、組織の拡充を言われた。
昨晩、私が長年親しくさせてもらい、大変尊敬している外務省のSさんからお誘いをいただき、西麻布にあるフレンチレストランでITや教育、文芸などそれぞれの分野でご活躍の方々と楽しいひと時を過ごさせてもらいました。




