徹底した現地主義、トヨタに見るグローバル人材活用の極意

トヨタ自動車に浸透する「現地現物」スピリット。これはトップから作業員に至るまですべての社員が必ず生産や営業の現場に足を運び、自身の目で状況を把握した上で判断を下すことを意味する。こうした現場主義、現地主義は人材面にも反映されている。

» 2008年08月20日 11時45分 公開
[伏見学,ITmedia]

 欧米企業のみならずインド、韓国といった新興国企業の台頭によって、世界規模で一段とし烈な争いを繰り広げている自動車メーカー。その中においてトヨタ自動車は販売台数で世界一になるなど、グローバル展開を図っていく日本企業の手本となるべき「勝ち組」企業といえよう。

 そのトヨタの経営トップを含む社員220名以上に対して約6年にわたりインタビューを行い、企業成長の要因を分析した研究書『トヨタの知識創造経営:矛盾と衝突の経営モデル』(日本経済新聞出版社)の著者の1人である一橋大学大学院 国際企業戦略研究科の大薗恵美准教授は「世界に通用する人材をどう育てていくかが重要」と話す。

一橋大学大学院の大薗恵美准教授 一橋大学大学院の大薗恵美准教授

 企業がグローバル化を進める上で課題としているのが、最適な人材の確保である。日本企業の多くは本社から優秀なマネジメント人材を海外拠点へ派遣するため、日本国内で組織の弱体化が起こる。一方で、駐在先でも現地の商習慣を知らないがために悪戦苦闘するケースが見られるという。そこで近年IBMなどでは、それぞれの地域の拠点に独自の機能を持たせて人材をはじめ経営資源を最適化する「グローバルインテグレーテッド・エンタープライズ(GIE)」というグローバル戦略を提唱しており、欧米の先進企業を中心にこうした考えが浸透しつつある。

 「しかしながら、欧米と比べると日本企業のローカルでの人材獲得は遅れている」(大薗氏)

 ではトヨタはどうか。同社が長年にわたり培った企業文化の1つが「現地顧客」への徹底した対応だ。相手の国情や行動規範を理解し、現地市場独自の好みや需要を取り入れて、現地仕様の製品やプロセスをつくり上げるというものである。そのためには各拠点で人材を確保し、開発・設計から生産、販売、サービスまで一貫した現地化を実現する必要がある。ただしその際、やみくもに現地の優秀な人材を調達するのではなく、採用した人材を次世代のリーダーとするべく時間をかけて育てていくことがトヨタ流だと大薗氏は強調する。

 トヨタでは「モノづくりは人づくり」という考えの下、2003年に豊田市にグローバル生産推進センター(GPC)を設立後、2006年には米国、英国、タイに地域GPCを相次いで開所するなど、グローバル人材の育成により一層注力している。

 また、アウトソーシングによる人材活用もグローバルで企業が勝ち抜くためには重要となる。この点でも日本企業の取り組みは遅れているという。大薗氏は「トヨタはコア業務の7割をアウトソーシングしている。きちんと価値を出しているかシビアに見ており、請負先企業や人材をうまく調節して品質を維持している」と説明した。


第4回 ITmedia エグゼクティブ フォーラム グローバルで勝つための経営とIT戦略とは?

日本企業は、その規模の大小を問わず、経済のグローバル化の波に飲み込まれつつありますが、これを粘り強い経営によって、乗り越え、機会拡大に結びつけてきた日本企業も少なくありません。デジタル家電や自動車のメーカーらがその筆頭でしょう。

ユニークな戦略で競争力を獲得している日本企業に贈られる「ポーター賞」の運営委員として知られる一橋大学大学院の大薗恵美准教授は、最近の共著「トヨタの知識創造経営 矛盾と衝突の経営モデル」の中で、人材開発や企業文化などの「ソフト面」にも着目し、成功企業の戦略の本質に迫っています。

第4回 ITmedia エグゼクティブフォーラムでは、大薗先生や、コンサルティング会社で長らく自動車業界の戦略立案などを統括されてきたシーメンスPLMソフトウェアの三澤一文社長、IBM ビジネスコンサルティングサービス 技術戦略コンサルティングをご担当の加藤陽一パートナー、日本アイ・ビー・エム グローバルビジネス事業をご担当の浦川伸一理事をお招きし、グローバルで勝つための経営とIT戦略を議論します。

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