信用組合の合併を成功に導いたシステム統合【前編】シェアードサービス(2/2 ページ)

» 2008年09月30日 11時32分 公開
[Michael Ybarra,ITmedia]
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2つの信用組合の個性を生かした合併を目指す

 ファーストカルガリーは1938年、アルバータ州で初めての信用組合を設立した。最初の貸し付けは、洗濯機を購入する組合員に対する50ドルだった。一方、エンビジョンフィナンシャルが誕生したのは1946年だ。ブリティッシュコロンビア州の漁師仲間が集まり、そのうち1人の自宅を拠点に信用組合を設立した。それから20年経っても、組合員数はわずか5人だった。だがその後、どちらの州でも地域の統合が進み、両信用組合とも成長の勢いを加速させていった。その結果、エンビジョンは総資産額が30億ドル以上と、ブリティッシュコロンビア州で3番目に大きな信用組合に成長し、ファーストカルガリーも総資産額を15億ドルに拡大した。

 そして03年、両信用組合のCEOは、ITも含め、双方の業務を統合する方法について話し合いを開始した。とりわけ留意すべきは、信用組合の営業活動を同一州内に限定している法律に抵触しないよう配慮することだった。翌04年、両CEOは「Pathways Project」と呼ばれるプロジェクトを発表し、両信用組合の業務、およびCEOとCFO以外の経営陣を統合する方針を明らかにした。

 プロジェクトは全部で3年かかる見通しだったが、その第1フェーズでは、ITと業務を統合し、インユニゾンを結成した。そして、第2フェーズでは、サービスを全国のそのほかの信用組合にも展開。

 「ファーストカルガリーとエンビジョンはカナダ西部の住民向けに強力で今日的な金融ネットワークを構築すべく、革新的かつ独自の方法で協力している」とファーストカルガリーのCEOであるデイブ・グレゴリー氏は当時語っていた。

 「一方の企業がもう一方の企業のアイデンティティを飲み込んでしまうような従来型の合併とは異なり、ファーストカルガリーとエンビジョンの提携関係は双方の信用組合を基盤に据え、それぞれの地域のアイデンティティを維持しながら、ほかに類を見ないような充実した個人向けサービスを双方のコミュニティー全域に提供していく」

統合前のプランニングが成否の分かれ道

 ここで登場するのがコネリー氏だ。同氏は大学では写真学を専攻し、ITに関してはMicrosoftとCisco Systemsの認定トレーニングを受けている。同氏はキャリアの大半をカナディアン航空で過ごした。カナディアン航空には21年勤務し、法人サポートや世界中のインフラの管理を担当したが、その後、同氏は通信機器メーカーのシエラワイヤレスに移り、ITディレクターとして、JDエドワーズの大規模なERPシステムの実装を担当した。

 コネリー氏はシエラワイヤレスに在職中、ある人材あっせん企業から電話をもらい、エンビジョンがCIOを募集しているという話を聞かされたという。コネリー氏は最初、それが自分に適したポジションとは思わなかった。「IT業界から信用組合に移るというのは、あまり興味深いことに思えなかった。だが、エンビジョンがファーストカルガリーとの提携を計画しているということを聞かされた」と同氏。

 「その種の提携は期待に沿えないまま終わってしまうケースが少なくない」とフォレスターのアナリスト、ルイス・カーディン氏は指摘している。「わたしの顧客の中にも、事前の準備を怠ったところがある。プロジェクトの実施には3年をかけたが、それでも彼らは目標を達成できたのかどうかすら分からずにいる。投資対効果の見通しもくずれてしまった。投資回収率(ROI)も低下する一方だ」

 最も重要なステップは、統合前のプランニングだ。「事前に十分な時間をかけてプランニングと従業員への説明をしっかり行っておかなければ、結局、そうしたことを移行作業中に行うことになる。そうなれば、時間が余計にかかるだけでなく、取り組みが失敗する可能性も高まる。ビジネスケース(投資対効果検討書)ではスケジュールの厳守が重要となるため、そうしたことでは、当初の見通しを実現することもできないだろう。実際の移行作業は、最後の最後のステップだ。移行作業はできるだけ短期間で完了する必要がある」とカーディン氏は警告している。

 04年2月、コネリー氏はエンビジョンのCIOに採用された。その5カ月後、同氏はファーストカルガリーのCIOにも就任した。それから1年半の間、同氏は両組合のIT部門を別個に管理していたが、その後06年1月にこの2つのIT部門はついに統合された。

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