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» 2009年01月08日 08時30分 UPDATE

ITmedia エグゼクティブセミナーリポート:拡張と結合のための矛盾する行動で“飛躍”を遂げるトヨタ (1/2)

グローバル展開を進めている日本企業にとっての手本と言える存在が、世界最大級の自動車メーカーであるトヨタ自動車である。同社の強さの秘密は、カンバン方式に代表される経営のハード面のみならず、絶え間ない自己革新を可能にする経営のソフト面にもあるという。

[岡崎勝己,ITmedia]

トヨタの強さを支える経営の“ソフト面”

 インドや韓国といった新興国の発展に伴い、グローバルでの競争がますます過熱すると予想される自動車産業。そうした中にあって、圧倒的な存在感を放っているのが日本最大の時価総額を誇るトヨタ自動車である。2007年における生産・販売台数は世界最大手とされた米General Motors(GM)を抑え、事実上、世界1位の自動車メーカーの座を獲得した。このたびの世界的な経済危機や円高の影響で、直近の業績は厳しい状況に見舞われているが、グローバル展開を進めている日本企業にとって、トヨタはまさに手本となる存在であることは間違いない。

 そんな同社の競争力の源泉は果たして何なのか。この点について、これまで「カンバン方式」に代表される同社の生産システムや物流管理手法、研究開発体制などに代表される、同社の強さの秘密が解き明されてきた。

 ただし、こうした経営の“ハード面”のみならず、マーケティングや販売、人事、企業文化といった、そのプロセスを定義しにくい“ソフト面”も考慮に入れることで、同社の隠れた強みが把握できるのではないか――。こうした考えの下、トヨタの経営トップを含む社員220名以上に対し、約6年をかけインタビューを行い、企業成長の要因を分析した書籍が『トヨタの知識創造経営:矛盾と衝突の経営モデル』(日本経済新聞出版社)である。


 アイティメディアは12月11日、グローバル経営時代において勝ち残るための経営とIT戦略をテーマとした経営者向けセミナー「第7回 ITmedia エグゼクティブセミナー」を開催。その基調講演で、同書の執筆者の1人である一橋大学大学院 国際企業戦略研究科の大薗恵美准教授は「経営戦略的に考えれば、トヨタのようにフルラインで自動車を生産すれば、当然リソースが分散され競争力の低下を招いてしまう。しかし、現実的に同社は優良企業であり続けている。なぜか。この疑問を解く鍵は、相矛盾する同社の行動にある」と指摘した。

フルライン戦略でリソースが分散しつつも強い理由

「矛盾こそがトヨタの強さ」と語る一橋大学大学院の大薗恵美准教授 「矛盾こそがトヨタの強さ」と語る一橋大学大学院の大薗恵美准教授

 実際に、トヨタは相矛盾する行動をいくつもとっている。例えば、プロセスから無駄を排除する一方で、会議にはただ話を聞くためだけに多くの社員が出席することもその1つ。うまくいった新たな取り組みは作業を標準化し固定化しつつも、絶えず業務の見直しを行っていることもその一例に挙げることができるだろう。手続きやルールが多い官僚的な組織でありながら、上司に反論したり、指示を覆したりすることも決して少なくない。

 これらの自己矛盾は、米国で販売する「サイオン」の事業に端的に表れている。同社では従来、「品質はプロセスで作り上げる」との考えの下、車のカスタマイズには非協力的だった。しかし、若者をターゲットとしたサイオンの拡販にあたっては、若者の多様な趣向に応えられるよう設計書を公開して、アクセサリの開発を支援。アートやイベントなど若者の関心を引くイベントを開催し、それらをセールストークに活用させることで、従来のセールスの強みを陳腐化させるという大胆な自己変革に打って出た。その結果、トヨタのユーザーの平均年齢が50歳であるのに対して、サイオンでは平均年齢で31歳という若いユーザーを獲得でき、また1つ、飛躍を遂げることができたのだ。

 では、トヨタはなぜ自己を否定するような施策が可能なのか。その原動力として大園氏が挙げたのが「現地顧客対応」「実現不可能な目標」「実験主義」という3つの事業の拡張力だ。

 例えば、トヨタの基本戦略は、すべての市場にフルラインの製品を提供することにあり、そのために5カ国以下の国でしか販売されていない車種も少なくない。何よりもまず現地の顧客ありきという考えが浸透している結果だ。

 「普通に考えれば、販売される国が少なければ、事業効率は低下する。だが、実は各国における車種の販売台数は少なくなく、効率性が維持されている。これこそ、グローバル市場とローカル市場の双方を視野に入れた、矛盾との衝突の経営の産物にほかならない」(大薗氏)

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