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» 2009年01月23日 08時20分 UPDATE

ミドルが経営を変える:【第13回】従業員主導の「三等重役」選び――安田生命および大成建設の事例 (1/2)

戦後すぐに経営者に抜擢された人たちは「三等重役」とやゆされた。しかし中には、一等級の働きを見せた者も存在した。前回に続き、混乱期における企業の取り組みを紹介する。

[吉村典久(和歌山大学),ITmedia]

「ミドルが経営を変える」バックナンバーはこちらから。


 「三等重役」などとやゆされた、戦争直後に経営者に抜擢された人々。その中には、ミドルをはじめとする従業員の意見に後押しされる形で経営者に選ばれた人もおり、三等どころか一等級の働きを見せた事例を前回に取り上げた。

 スーパーゼネコンの一角を占める大成建設の社史は、この時代を次のように回顧している。「いくら激動の時代とはいえ、経営機構の責任者を、社員投票によって選出するというやり方は当時でも例が少なかったが……」。

 前回に引き続き、戦後の動乱期における日本企業のトップ選任に着目する。今回は従業員の選挙でトップが選ばれた事例を取り上げていく。上記の通り、少なかったとはいえ、そうした極端な事例は存在した。

従業員の手による役員選挙――安田生命保険

 前回紹介した住友生命の事例では、社長を含む役員の選任に際して従業員組合の意見が大きく反映された。同じく生命保険業を営む安田生命保険(現・明治安田生命保険)では、さらに徹底して、選挙で経営者の選任が行われている。1946年から47年にかけてのことだった。

 *1勤続3年以上の内勤者と、支部長あるいは勤続5年以上の出張所長などの外務員といった一定の基準に達した合計1294名による選挙で、まず全国から30名の選考委員が選出された。次に選考委員会によって選ばれた役員候補者について一般投票を実施して、得票数に応じて株主総会への推薦順位を決定するという方法が採用された。委員会で選出された取締役12名、監査役2名の候補者から9名が選ばれた。その後、臨時株主総会が開催され社長をはじめとする現職役員が総退陣し、新たな役員として先の9名に、選挙を経ない非常勤の役員として選考委員が推薦した3名が追加され、12名が新たな役員として選任された。

全社一丸で会社再建に取り組む――大成建設

 同様の事例としては、冒頭の大成建設の例もある*2。同社は、戦前の中堅財閥である大倉財閥の創設者、大倉喜八郎により1873年(明治6年)に設立された大倉組商会を源流とする。その後、大倉財閥の中核企業へと発展した。しかし戦後、占領軍による財閥解体を迎えることとなる。戦後の1946年(昭和21年)1月には大成建設と改称し再スタートを切ったものの、同社は存亡の縁にあった。終戦により工事はすべてストップ、資産は政府の管理下におかれ、在外資産はゼロとなった。終戦時の経営陣は追放される一方、海外勤務の従業員が内地に引き上げてくる状況にあった。

 こうした状況の中、同社のミドルは会社再建に懸命に取り組むこととなる。当時、再建の中核を担ったのは重役室直属の企画課だった。本来は役員からの諮問に応える形で会社の基本施策を企画立案する部門だったが、戦後の混乱期、重役からの諮問がなくとも、任意にその場に集ったミドルは会社の将来について活発な議論を重ね、再建に向けての施策を提案することとなった。その策の1つが、社長を含め新しい役員を従業員による選挙で選び、従業員自身が選んだ役員の下、全社一丸となって再建に取り組むことだった。

 社内から再建策がわき上がってきた様子を同社の社史は次のように伝えている。

 「一方で財閥解体、戦争責任者追放など上からの強制改革が行われているとき、他方下部では、このような下から盛り上がる民主的な会社再建の気運が会社再建のための意志決定機関として、社員組合の結成をもたらし、社員持株制度、役員選挙制度というようなほんの数カ月前までは、想像もつかなかったような経営の変革を生み出したのであった」


 この際の選挙規定は以下の通りだった。

1. 「選挙資格」:資格を有するのは、満5年以上勤続した社員と現在の会社役員。

2. 「役員候補者」:具体的には、社長候補者1名と取締役・監査役候補者若干名。

3. 「選挙方法」:現役役員、幹部社員、一般社員の3つの母体がそれぞれに候補者を選出。

4. 「投票方法」:無記名。社長1名とその他役員24名の連記制。

5. 「候補者決定方法」:第25位までの得票者が候補推薦者。


 1947年(昭和22年)1月15日に役員候補者の推薦選挙、同2月8日には選挙投票が実施された。その結果に基づいて、3月20日の臨時株主総会で社長を含む新役員が選出された。新社長に選ばれた藤田武雄氏は、1940年(昭和15年)から大成建設の旧・満州の現地法人に勤務し、終戦時には代表者の席にあった人物だった。


*1 安田生命の事例については、以下を参考にした。安田生命一〇〇年史編さん委員会[1980]『安田生命百年史』190 - 192頁、『日本経済新聞』1994年10月2日付朝刊

*2 大成建設の事例については、以下を参考にした。引用も以下からである。社史発刊準備委員会[1963]『大成建設社史』、大成建設[1969]『大成建設のあゆみ−1945-1968』

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