ピントはずれ藤田正美の「まるごとオブザーバー」(1/2 ページ)

「日本の傷は相対的に浅い」、「日本だけが良くなるわけにはいかない」などと話す麻生首相。いまだ世界的な経済不況が進行する中、この現状認識の甘さはいかがなものであろうか。

» 2009年04月10日 12時48分 公開
[藤田正美(フリージャーナリスト),ITmedia]

 麻生政権が発足して半年。その感想を問われて首相は、景気対策に明け暮れた半年だったというようなことを語った。確かに昨年9月15日がいわゆる「リーマン・ショック」の日。その日を境に急激に景気が悪化している。当初はこれほど実体経済が悪くなるとは思っていなかったとも言う首相だが、いま現在の状態に対する認識はまだ甘いのではないだろうか。

 「日本だけが良くなるというわけにはいかない」という一言に認識の甘さが表れていると思う。IMF(国際通貨基金)は、昨年11月に世界経済の見通しを発表したが、今年1月末には大幅に下方修正。さらに、この3月には再度下方修正した見通しを発表した。それによると、2009年の世界経済はマイナス0.5%からマイナス1%になり、ここ60年間で初めてのことだとしている。60年前とは1949年だから世界は第2次世界大戦の傷が癒えていない状態。それ以来、世界経済がマイナス成長になったことはないのだから、今回の景気後退がいかに世界を巻き込んでの「大惨事」になりつつあるのかが想像できようというものだ。

 それだけではない。IMFの新たな予測の中で、2009年に米国はマイナス2.6%、ユーロ圏がマイナス3.2%なのだが、日本は何とマイナス5.8%となっている。その原因は輸出と企業の設備投資の現象であると説明されている。年率で6%近いマイナスというのは尋常ではない。内閣府の資料を見ても、1956年以降ではマイナス1.5%というのが最悪の数字である。

危機意識が低過ぎる

 そのような状態の中で、2008年度の一次補正、二次補正、そして2009年度予算と「三段ロケット」で日本が世界に先駆けて回復するなどと麻生総理がぶち挙げたのはそう以前の話ではない。2009年度の経済見通しが閣議決定されたのは今年の1月19日。そこでは2008度の実質成長率がマイナス0.8%、2009年度が0%などとのんきな予想になっているのである(民間調査機関は2009年度はマイナス4%程度と見ている)。

 本来であれば、政府も見通しをさっさと下方修正すべきところだ。それなしに景気対策といっても、巷の危機感は伝わらない。実際、麻生総理は(麻生総理だからかもしれないが)、有識者との懇談会で「株をやる人は田舎では怪しげだと思われる」などと、これまた現状を踏まえての発言とは到底思えない発言をしている。大幅に下落した株価を上げないことには金融機関の融資もままならず、株価を上げるためには個人投資家をいかに引き戻すかが重要なときに、首相が発言する内容ではあるまい。まるで長屋のご隠居が若い人に説教を垂れるような言い方だ。

 日本経済の需給ギャップは約4%程度、それを埋めるためには20兆円の経済対策が必要とされている。それが2009年度20兆円補正予算という根拠になっているのだが、これまでやってきた経済対策はいわゆる「真水」部分ではたかだか12兆円にすぎない。これは米国や中国と比べるといかにも見劣りすると言っては、麻生さんは怒るだろうか。

 なにせ米国は2年間で7870億ドル(約70兆円)を今年決定し、中国は昨年秋に4兆元(約60兆円)の財政出動を発表した。世界第2位の経済大国である日本がたかだか12兆円というのは、世界における発言力も傷付こうというものである。

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