前回から2回にわたり、「価値ある情報は競争優位を生み出すのか」について説明しました。この命題に対する回答は、イエス、ノーのどちらでしょう。わたしは「イエス」と回答します。ただし、情報を整備するだけではダメだということを十分に理解した上での「イエス」です。どれだけ高度な情報システムを配備し、情報マネジメントの投資やプロセスの整備を実施しても、それだけでは競争優位を保つことにはならないということを忘れないでいただきたいのです。
われわれの行動は、われわれの価値観によって形成されます。情報に対する価値を持たない組織では、情報指向の行動が起きません。前述のマーチャンド氏らによると、情報指向とビジネスパフォーマンスは相関関係にあり、情報指向の高い企業・組織は世界中でも少数ということが報告されています。情報指向を高めることは、競合他社にはない能力を保有し、他社に対して競争優位に立つことにつながります。
日本企業の経営トップの方々は、「情報システムは、自動化、機械化による合理化にしか役立たない」と考えている場合が多いように感じます。こうした経営トップの配下にいるIT部門の方々は、たいへん残念ですがお気の毒さまです。しかし、「価値ある情報は競争優位を生み出す」ことは世界的に疑う余地はありません。
情報指向の重要性を認識した事例として、2002年後半に行われたMcKinsey and Company (McKinsey) の発表があります。そこでは、社内レビューの結果「1990年代のエンゲージメントの多くは、内部の情報管理プラクティスが適切でなかったために被害を被った」という結論が導き出されています。そこでMcKinseyは、情報マネジメントに対する投資額を年間売上高の0.3%からおよそ3%(3000万ドル)に引き上げました。これは経営コンサルティング業界の大手他社と同等の水準にあたります。
一方で、多くの企業は情報指向の企業文化を持っていません。CIO(最高情報責任者)にとって、「情報指向のカルチャーを生み出すために、どのような活動に着手すべきか」は、真っ先に解決すべき問題といえます。
2006年にガートナー ジャパン入社。それ以前は企業のシステム企画部門で情報システム戦略の企画立案、予算策定、プロジェクト・マネジメントを担当。大規模なシステム投資に端を発する業務改革プロジェクトにマネジメントの一員として参画した。ガートナーでは、CIO向けのメンバーシップ事業「エグゼクティブ・プログラム(EXP)」の日本の責任者を務める。日本のCIOは、経験値だけでなく、最新のグローバル標準を研究した上で市場競争力を高めるべきとの持論を持つ。
自社のどの部分にITのリソースを適用し、競争優位を発揮すればいいのか。それを考える足がかりになる「戦略的情報マネジメント」について、5月27、28日に開催する「ビジネス・インテリジェンス&情報活用サミット 2009」で講演する。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授