イノベーションパートナーになるための挑戦――サービス価値と顧客価値の一致とは潮目を読む(2/3 ページ)

» 2009年09月04日 08時15分 公開
[椎木茂(IBCS),ITmedia]

デリバード・バリュー・プライシングとは

 その1つの解決策として模索されているのが「デリバード・バリュー・プライシング(DVP)」という考え方です。これは顧客企業がサービスにより受け取る成果とサービスプロバイダーが得る報酬を「適正」にするプライシングモデルです。適正とは、サービスの提供コストで決められるのではなく、顧客企業が受けたサービスやその後の成果(ビジネスの効率化、ROI、経費削減、売上向上など)をSLA(サービスレベルアグリーメント)という基準として設定し、その達成度合いによって適正なサービス料金を決定するという意味です。

 リターンが出たら分配する「成果共有」でもなく、目的の達成有無によって大きく変動するハイリスクハイリターンの「成功報酬」でもなく、あくまでもサービスの価値と料金を一致させることを目指すモデルです。

 このプライシングモデルは3つの部分で構成されます(図1)。まず、固定部分である「基準価格」は従業員給与における「基本給」や年棒の「一部前払い」の位置付けであり、プロジェクトの内容によって調整します。例えば、ハイリスクハイリターンであれば、この部分を小さくしてより成功報酬型に近づけることもありえますし、成功事例が多い案件ならば基準価格を大きく設定することになるでしょう。

<strong>図1</strong>デリバード・バリュー・プライシングの構造 図1デリバード・バリュー・プライシングの構造

 変動部分は2つあり、「実現した利益の分配分」と「使用量」です。実現した利益は、期待値以上のストレッチゴールの達成なども考慮すべきポイントになります。使用料については、プロジェクト遂行上必要となった専門家の支援を利用時間分だけ支払うというタイムチャージ方式です。この固定+変動のプライシングモデルは、2008年に経済産業省より刊行された「情報システムのパフォーマンスベース契約に関する研究」という報告書の中でも提示されています。

 大まかなDVPの構造は以上の通りですが、最も重要なのはサービスの実現する価値を定義することにほかなりません。成功を測る指標には、売り上げ、コスト削減額などの財務レベルの評価指標から、それをブレイクダウンしたオペレーショナルレベルの指標に加え、プロジェクトの納期や品質などプロジェクトレベルの指標もあります。例えば、プロジェクトの品質であれば、稼働後の不具合件数などの指標も考えられます(DVPの詳細はDiamond Harvard Business Review 2005年10月号「デリバード・バリュー・プライシングへの挑戦」をご参照ください)。

プライシングモデルが変化する潮目とは

 これまで述べたような新しいプライシングモデルは、B2Bサービスの領域においては、商習慣や管理手法の変革を伴う故になかなか普及してはいません。これまでの歴史的な背景と、これから訪れるであろう潮目について説明しましょう。

 まず、米国政府がパイロットプロジェクトでの検証を経てインセンティブ付契約(プロジェクトコストや品質に重点を置く契約形態)や、パフォーマンス基準型契約(プロジェクト成果に重点を置く契約形態)を導入したのが大きな潮目です。目的は調達・開発コストの低減や品質向上でした。

 パイロットでは、パフォーマンス型契約へ移行した結果、全体で15%のプロジェクトコスト削減、18%のパフォーマンス満足度向上に加え、発注者側からの要求に対する受注者側の提案数の平均値が5.3から7.3へと向上したという検証結果が出たそうです。本格的な普及は1998年以降であり、2003年では全体の40%近くがパフォーマンス基準型契約であると報告されています。

 その後日本においては2004年に「政府IT調達におけるインセンティブ付契約の適用に関する調査報告書」が提出されたことが1つの潮目となり、現在は多くのサービスプロバイダーによる模索が始まった段階であるといえるでしょう。

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