谷から這い上がれるか?問われるコーチング力(2/2 ページ)

» 2009年09月24日 07時30分 公開
[細川馨(ビジネスコーチ),ITmedia]
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リーダーが谷に落ちれば……

 企業のリーダーも、山頂から谷に落ちることはある。業績が良く、すべてがうまく回っているときには、自分は優れている、何も心配することはないと過度に楽観的になる。実はお客様からクレームがきていたものの、取るに足らないことだと勝手に解釈し、無視してしまう。おごり高ぶって、そのようなサインを見逃していると、足元をすくわれ、谷に転がり落ちてしまうのである。

 リーダーが成長し続けないとどうなるだろうか。それは、周りの人間も一緒に谷に落とすことになるのである。リーダー1人の問題ならばいいのだが、リーダーが落ちれば周りの人間も巻き添えになる。作曲家のヴェルディが語ったように、リーダーにも終わりはなく、完成することはない。常に学び続け、成長し続ける必要がある。

谷に落ちて気付くこともある

 ただし、谷を見ることは決して悪いことではない。その理由の1つは、自分が谷に落ちることで、谷にいる人たちの気持ちが分かるようになるからである。実際に国民の中には、谷を通り越して、どん底に落ちている人が数多くいるのだ。多くの企業がこの不況でリストラを断行しており、失業率は5.7%を超えている(実質的には10%を越えているのではないかという声も聞こえる)。

 職を失い、路頭に迷って、どん底にいる人たちの気持ちを分からずに、能天気な発言をしていては、国民の理解は得られないだろう。自民党は、今回谷に落ちたことで、谷にいる人がどんなことを思うのかを少しでも理解できるようになるのではないか。

 2つ目の理由は、今、谷にいるのであれば山を登る以外道はないからだ。山を登るのは大きなチャンスである。原点に戻って谷から山頂を目指す。登りながら自分たちがどのようにすれば這い上がれるかを懸命に模索し、努力する。

 気を付けなければならないのは、谷に落ちると、そこに安住してしまう人がいるのである。谷は居心地が良く、楽な場合もあるからだ。それほど注目されることもなくなり、自分の器の中でひっそりと生きられる。無理に仕事をする必要もないし、自分の皮を破って何かチャレンジする必要もない。誰にも邪魔されず、自分のペースでのんきに暮らすことができてしまうのである。しかし、それでは生きている意味がなくなるし、リーダーとしては屈辱ではないだろうか。

 心から日本のこと(組織のこと)を考え、自分に何ができるかを追い求めているならば、谷にいるときにこそ、それに向かって努力していく必要がある。

強い信念を持ち続けること

 山に登る上で認識して欲しいのは、自分の強い信念を持つことである。今回の選挙で静岡県第7選挙区から出馬した城内実氏は、自民党で将来を嘱望されながらも、自分の信念を貫き郵政民営化に反対して自民党を去った。その結果、前回の選挙では敗退した。しかし、彼は自分の信念を貫いて国民に訴え続け、今回無所属で出馬して当選を果たした。スズキ自動車の鈴木修社長が彼を支援した。鈴木社長は城内氏の人間的資質と信念を貫く姿勢に共感したという。

 リーダーになったならば、山頂にいても、谷にいても、常に自分の信念を持ってほしい。そして、努力し、学び続けることである。

 今回政権をとった民主党も決して安泰ではない。山を登り続ければよいが、山の上で一服して立ち止まったら、谷に落ちることになるだろう。新しいリーダーたちが信念を貫いて努力し続け、日本を引っ張って欲しいと願ってやまない。


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著者プロフィール

細川馨(ほそかわ かおる)

ビジネスコーチ株式会社代表取締役

外資系生命保険入社。支社長、支社開発室長などを経て、2003年にプロコーチとして独立。2005年に当社を設立し、代表取締役に就任。コーチングを勤務先の保険会社に導入し、独自の営業システムを構築、業績を著しく伸ばす。業績を必ず伸ばす「コンサルティングコーチング」を独自のスタイルとし、現在大企業管理職への研修、企業のコーポレートコーチとして活躍。日経ビジネスアソシエ、日経ベンチャー、東商新聞連載。世界ビジネスコーチ協会資格検定委員会委員、CFP認定者、早稲田大学ビジネス情報アカデミー講師。



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