「経営者は単一事業の戦略を考えるべき」――早稲田大学大学院・根来教授【前編】【対談連載】石黒不二代の「ビジネス革新のヒントをつかめ」(2/2 ページ)

» 2009年12月01日 08時00分 公開
[石黒不二代(ネットイヤーグループ),ITmedia]
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理論通りには定義できない実ビジネス

 しかし、これを実務的にみると、競争優位性の定義はそう簡単ではありません。企業は、利益を生み出す組織と規定されていますから、1位以外でも持続的に利益が出ていれば競争優位があると言えます。この考え方からすれば、わが国の携帯電話3キャリアはすべて競争優位かもしれないし、ハードウェアメーカーに至っては、1位のシャープが赤字に転じた今年は、すべての携帯ハードメーカーは競争優位性がないとも言えます。ただ、それが1年だけの短期的な環境要因が起こした現象だとすれば、本質的な問題ではないでしょう。

 以上は定義をめぐる本質論ですが、実務的には、機能優位で利益率が高いとか、顧客満足度が高いとかいう実際的な競争優位性を論じることになり、直接ライバルと代替品を設定した上で、それらの相手より利益率が高く優位性が持続的に続くビジネスをすることが求められます。

 これが今回の対談の基礎になる考え方で、競争優位性と一言でいっても、その規定の仕方にはさまざまな方法があるということです。しかし、それがはっきりしないと、整合性のある戦略を策定することは不可能です。

単一事業の戦略と多角事業の戦略

 競争優位性を保つために企業としてどんな戦略を持てばいいのでしょうか。まず戦略を2つに分けて考える必要があります。事業ユニットの戦略と複数事業を持っている企業の全体戦略です。例えば、ソフトバンクという会社は複数のビジネスを組み合わせて企業活動をしているため、全体のバランスを考え資金源をどの事業に求めるかという全体戦略が大切になります。一方、ソフトバンクモバイルは、単一市場で活動していて、競合もNTTドコモやイーアクセスなど限られますから、ソフトバンク全体とは戦略の意味が異なります。

 根来先生は、経営者は単一事業の企業戦略を考えるべき人だという意見を持っています。なぜなら、会社がリスクを分散するために経営を多角化するのであれば、株主資本の論理から言って株主が別々の会社の株を買えばよいということになるからです。例えば、ある会社が30の事業を持っているとすれば、すでに単一事業の戦略を練るという経営者の処理能力をはるかに超えているため、経営者に求められる資質は財務パフォーマンスの管理に移行せざるを得ないのです。

 こう考えると、多角化であれば、別々の会社にした方が社会的効率性は高いのではないかという議論もできます。多角化は事業間に強いシナジーがあり、その会社が同時に複数の事業を持つことで、別々に事業が行われるよりも格段にコストが安かったり利便性が高かったりする場合のみ社会的には正当化されます。よくネット企業が会社を買いあさっている光景を見ますが、その場合は経営者から出資者に転じた方がよいのかもしれません。

 そうは言っても、上場企業では多角経営をしている会社の方が多いのが現状です。実務として問題となるのは、単一事業と複数事業の戦略の区別ができていない経営者が多いことです。単一事業の場合は、事業の競争優位性やリスクを論じながら企業戦略を考え、複数であれば、ジャック・ウェルチのような専門経営者が目標を設定し、それと事業の成果との差を管理するといった明確な区分けができていないといけません。複数事業を傘下に持っている会社でも、コア事業が明確であれば、コア事業に能力のある経営者がその戦略にコミットしながら配分を考えることが望まれるでしょう。ビル・ゲイツなどがこれに当たります。

後編「模倣されない仕組みをつくれ


著者プロフィール

石黒不二代(いしぐろ ふじよ)

ネットイヤーグループ株式会社代表取締役社長 兼 CEO

ブラザー工業、外資系企業を経て、スタンフォード大学にてMBA取得。シリコンバレーにてハイテク系コンサルティング会社を設立、日米間の技術移転などに従事。2000年よりネットイヤーグループ代表取締役として、大企業を中心に、事業の本質的な課題を解決するためWebを中核に据えたマーケティングを支援し独自のブランドを確立。日経情報ストラテジー連載コラム「石黒不二代のCIOは眠れない」など著書や寄稿多数。経済産業省 IT経営戦略会議委員に就任。



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