「夢ではない」実現可能性が増す宇宙太陽光発電──宙博の講演と展示から【後編】(1/2 ページ)

宙博2009において、将来のエネルギー問題解決の選択肢の1つとして講演や展示が行われていたのが、衛星軌道に巨大な太陽光発電システムを打ち上げるという「宇宙太陽光発電(SSPS)」だ。そのコンセプトや現状について前後編で紹介する。

» 2009年12月15日 11時55分 公開
[環境メディア]
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前編から続く。


 狼氏によれば、SPSS実現に当たっての解決すべき課題は多いが、工学的にまったく不可能であるとかまったく未知であるものは基本的に1つもなく、過去 20年間の技術の進展によって実現性とコスト低減の問題は少しずつ改善されてきている。残された主な課題には、ロケットでシステムを打ち上げるためのコストの低減、太陽電池効率のさらなる向上、高温超電導ケーブルのための冷却システム実現、マイクロ波による送信・制御技術の熟成、宇宙空間でのシステム組み立てやメンテナンスのためのロボット技術の熟成などがある。

 このうち太陽電池の変換効率はかなり向上し原理上の限界に近づきつつある。高温超電導の利用については、絶対温度70度程度まで冷却するシステムができれば使えるというデータが中部大学などの研究で出てきており、2010年にはデモンストレーションプラントが動き出すという。マイクロ波送信・制御技術は日本が「きく8号(ETS-VIII)」をはじめとする数々の技術試験衛星で蓄積した技術によって見通しが立ちつつあるという。

 最も難しい課題は打ち上げコストの低減。SSPS衛星は 100万キロワット級でおよそ2万トンの質量と見積もられている。日本最大のH-IIBロケットでも静止軌道への投入能力は最大8トンであり、単純計算で 2500回の打ち上げが必要となってしまう。MITでのワークショップにおけるコストの推定資料によれば、現在1キログラムの打ち上げに2万ドルもかかるため初期コストの大部分が打ち上げコストで占められており、これをいかに安く抑えるかが重要な課題。なおこのワークショップでの議論の結果としては「前提条件の分散が大きいためシステムとしてインテグレーションした場合の見通しがつきにくいものの、放棄するのではなくさらに検討を進める潜在的な価値がある」というものだったという。

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