GEのIT戦略に学ぶITmedia エグゼクティブ セミナーリポート(2/2 ページ)

» 2010年01月22日 12時00分 公開
[岡田靖,ITmedia]
前のページへ 1|2       

企業文化を共有するアプリケーション統制

 買収した事業部門が、ほかの事業部門と一体感を持って活動できるようにするために、人事システムの統合に加えてアプリケーション統制も進められている。松本氏が担当するGEキャピタルジャパンでも数々の買収を行ってきた歴史がある上に、サービスが多岐にわたることから、膨大な数のアプリケーションがあるという。

「企業としての一体感を培うためには、ビジネスでいえばアプリケーションという同じ"道具"を使うのが文化を共有するうえで大事なことである。ただ、アプリケーションの統合を実現するIT部門としては、やはりIT組織の結合から始まる。従来のサービスごとに分けられた組織体制から、業務プロセスごとに改めていった」(松本氏)

 IT組織を結合させ、一緒に仕事をさせることで、自然にコミュニケーションが進み、それぞれが担当してきたアプリケーションへの理解が進むのだという。理解が深まったところで、業務プロセスごとの組織に切り替え、全体のアプリケーションの数を減らしていった。さらにアプリケーションの統合を進めることでテクノロジーの標準化が進み、IT部門の文化も自然と統合されていくのだという。

 現業部門も同様に、アプリケーションの統一やテクノロジーの標準化でインフラ標準化を行うことで、内部統制の観点では、アプリケーションの管理、不正の防止に役立てている。業務の標準化や世界規模のノウハウ共有、企業文化の浸透を通じてプロセス改善が進み、システム維持費削減、新興国の積極的な活用などによる生産性の向上にもつながっていく。ここにも、4つのIT戦略テーマがかかわっているのである。

外部ベンダーと社内ベンダーのコントロール

 ITベンダーに関しても、やはり4つのテーマを柱とした戦略が貫かれている。アウトソーシングでは、1990年代から全世界規模で指定ベンダー制度を設け、インフラ標準化とした。ベンダー管理を徹底する内部統制、プロジェクト管理ノウハウ共有によるプロセス改善、インドや中国など新興国を活用することで有利な契約条件と人材の安定確保を実現し生産性も向上させたという。

「外部ベンダーに関しては、選定基準のみならず、利用する際の基準も定めている。『70/70/70』と呼ばれており、総工数の70%を外注化、外注の70%を指定ベンダーに発注、指定ベンダーの70%を低賃金国へ、という内容だ。こうした基準が、かなり細かなビジネスユニットにまで適用されており、もし順守されなかった場合には理由を厳しく追及されるようになっている」(松本氏)

 社内ITインフラの提供も徹底して全世界共通化が図られている。目的としては、内部統制の強化、インフラ標準化の推進、プロセス改善の推進、そして購買力強化のチャンスであり、やはり4つのテーマに沿った戦略となっている。

「社内のITベンダーが全世界のGEのITインフラ需要をまかなうようになっている。この社内ベンダーは、サービスカタログ、SLA、統一価格を整備しており、共通仕様のサービスをグローバルに提供する形だ」(松本氏)

 さらにITの購買活動においても、やはり全世界共通のプロセスを設けている。例えばクライアントPCをみても、GEでは事業の買収や売却によって万単位の台数で増減することもあるとのことだ。そこでグローバルな購買カタログを用意し、そこに実績のフィードバックや、新たな技術やセキュリティ標準の適用などを行うようになっている。エンドユーザーPCの管理も標準化され、ユーティリティ化によって柔軟性の確保を実現しているという。

社員の力を引き出す仕掛け

 GEは、しばしば優秀な人材を輩出することでも知られている。また、最初に触れたように、業務改革を通じて従業員の力を引き出す体制を構築している。「Support Central」という名がつけられた同社のイントラネットは、この従業員たちの力をボトムアップで引き出すためのシステムだ。

「GEにおいても、社員がExcelやAccessで勝手に業務上のデータを管理しているという例はある。しかし、これを問題視して単純に禁止してしまえば会社の活力は低下してしまう。そこで提供されているのがSupport Centralだ。エンドユーザー向けのツールを、クラウドのような形態でイントラネットに提供している。例えばワークフローなどもすぐに作って使うことができる。会議中に、その内容に沿ったワークフローを作り、終わったときには直ぐに新プロセスを開始するといったことも頻繁に行われている」(松本氏)

 ほかにも、ブログやWiki、サーベイ(アンケート調査フォーム)、データフォームなどの機能が用意されており、これらの機能を通じて従業員が情報を共有している。そのデータ量は、今や25TB(テラバイト)にものぼるという。こうしたツール群の提供によってソフトウェア費用などを削減することができ、業務のスピードアップや従業員からのボトムアップの活性化にもつながっているとのことだ。そして、グローバルなコミュニケーションが活発に行われることで、企業文化の浸透も深まっていく。

 松本氏は、ITコスト削減に関して、次のように自らの考えを語っている。

「こうしたITとしての取り組みの結果として、GEの理念を、より深く細かく例外なく、そして早いスピードで、全従業員に浸透させていくことができた。ITコストそのものの削減もさることながら、会社を構造的に効率化して、全社的なコスト削減、プロセス強化、コンプライアンス強化、そして、活力を持った成長につなげることこそ、ITに求められていることだ。まさにそれが、ITの正しいコスト削減だと考えている」

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆