クラウドで返り咲く日本企業のものづくり能力世界で勝つ 強い日本企業の作り方(2/2 ページ)

» 2010年02月10日 08時00分 公開
[中島洋,ITmedia]
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品質の良さが日本の強み

 日本企業の強みは、商品の品質の良さを追求することである。家電製品や自動車などの工業製品ばかりでなく、農作物も同様だ。リンゴやナシ、米、水産物など、手を掛けた日本の商品は、高い値段で新興国の富裕層に浸透しつつある。

 人口の多い中国やインドでは、富裕層の厚さが違う。それだけ大きな市場があるということだ。ネット通販のサイトでは、商品の品質の良さをきちんと伝えられるかが鍵を握り、品質を伝える魅力的なサイトデザインが勝負を分ける。サイトに載る音響・映像情報は静止画にも増して、顧客を引き寄せ、引きとめ、囲い込むための魅力的なプロモーションコンテンツである。

 音響、映像コンテンツのような大容量のファイルを低コストで作成、蓄積し、配信できるインフラこそが、クラウドコンピューティングが提供する環境である。そのふんだんな能力によって、魅力的な音響・映像の利用が可能にする。

 劇場用の資金を投入したハリウッド映画のような映像は、日本の現在の力では競争しにくい分野だ。しかし、ストーリーを簡略化したアニメーションや数十秒でメッセージを届ける音響、映像コンテンツにおいて、魅力的な作品を作る能力は十分ある。その力は、江戸時代の版画や古くは絵巻物時代の作品に秘められている。クラウドコンピューティング環境をインフラにしたマルチメディアの時代には、日本のこうした能力が生きてくる。

 日本人が国際市場に打って出るときの弱点は外国語だが、ネット上の音楽や映像そのものは言語に依存しない。コンテンツを事前に多言語化して、準備しておくことも可能だ。魅力的な音響、映像コンテンツを前面に押し出したネットワーク通販のビジネスモデルは、十分に国際競争力を持つ。

 ネット通販は多くの国境を越えて、これまで日本の製品が到達できなかった市場を開拓してくれる。輸送手法の改善によって配送コストが低下するにしても、輸送コストは弱点だ。だが、高い品質とブランドイメージを確固たるものにできる魅力的な通販サイトによって、コストの壁は乗り越えられるはずだ。日本が誇る高い品質のものづくり能力は、そのメッセージを届けるクラウドコンピューティング環境の整備によって、さらに開花するだろう。

 音楽コンテンツもこの流れに乗る。レコードをこの世から放逐したCDが、ネット配信によって今度は絶滅への道を歩み始めた。同じことが雑誌・書籍で起こるだろう。町の書店をジワリと追いつめて、ネット書店で注文し、宅配便で受け取る、というスタイルが定着しつつある。電子書籍端末が普及すれば、紙媒体の雑誌・書籍そのものが消えてしまうかもしれない。その雑誌・書籍の次には新聞やテレビ放送である。

 クラウドコンピューティングの台頭により、日本企業はインターネットを軸にサービスモデルを転換せざるを得ないことがはっきりしてくるだろう。

著者プロフィール 中島洋(なかじま ひろし)

中島洋

日本の経済ジャーナリスト。MM総研 代表取締役所長。全国ソフトウェア協同組合連合会 会長、首都圏ソフトウェア協同組合 代表理事も務める。IT業界に関連した講演・執筆活動を展開。著書は『クラウドコンピューティングバイブル』ほか多数。


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