「ゼロベースでマーケティング戦略を作り上げる」 日本コカ・コーラ 江端浩人氏石黒不二代の「ビジネス革新のヒントをつかめ」(3/3 ページ)

» 2010年02月17日 08時00分 公開
[石黒不二代(ネットイヤーグループ),ITmedia]
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エコシステムの概念とインタラクティブメディアの重要性

 「コカ・コーラパークが挑戦する エコシステム・マーケティング」に出てくる生態系とは、海洋でミジンコから鮫に至るまで違う生物が1つの生態系をつくるような概念で、マーケティングの世界でも飲料もあれば車もあるように、業種の壁を越えて企業間でコラボレーションして強みを発揮していく循環するシステムが作れないかと考えたそうです。

 マスメディアのマーケティングのように単に有名企業の名前を羅列するのではなく、インタラクティブメディアは企業間のシナジーを生かして、より相乗効果を発揮しやすいのです。例えば、その企業が持つ元々の強みや、会員の多さ、商品力、ブランドのクールネスなどを合わせて消費者に届ける集合体として、インタラクティブは企業間を容易につなげて発信していくだけの力があるはずです。

 事実、インタラクティブ関係者の間で注目の集まった日産自動車と日本コカ・コーラのコラボによって実現した「ハッピースフルキャンペーン」は、車と飲料というまったく違う製品ということで、当初は成功を危ぶむ声が強かったのは確かです。

 日産自動車の新型「キューブ」の発売と、コカ・コーラの需要が高まる12月に向けたキャンペーンとのタイミングを同じにして仕掛けたいという思いはあったものの、毎日、食事などをするときに接触する飲料と、購買は5、6年に1回という自動車とでは、購買のフレックエンシーが異なりましたし、ティーンやファミリーを主な対象としたコカ・コーラ、若者向けのキューブというターゲットの違いもありました。

 しかし、キューブで展開したキャッチコピー「I'm Peaceful」という暖かい響きのコンセプトが、クリスマスというイメージとファミリー層に訴求しやすいということで企画が進んでいきました。こうしてできたのが、「Happy」と「Peaceful」の掛け合わせの「ハッピースフル」。クリスマスキャンペーンにのせることで消費者の腹におちたのです。テーマとタイミングは非常に重要なのです。

 最近は、IMC(Integrated Marketing Communication)の議論が盛んですが、これもインタラクティブがハブになって機能しています。なぜならば、インタラクティブメディアでは、消費者がいつでも見られる状態だからです。メディアに入り込めば、ほしい情報がとれるし、常に最新の情報に更新できます。とりわけ飲料に関しては、外出時に接触するという意味で、携帯電話がインタラクティブメディアとして相性が良く、優れていると思います。リアルタイムでアクションと結果が分かり、それに応じて対策も打てる。

 KPIとしては、ページビュー、ユニークユーザ数、会員登録数などで効果を見ています。また数字だけでは分からない部分もあるので、アンケートでブランド好感度などを測ることなども大切ですし、モニター制度を整えて、そこから定期的にユーザーの生の声を聞くようにしています。

2010年の「コカ・コーラ パーク」

 Owned mediaとペイドメディアとしての存在感が確立した今、2010年の「コカ・コーラ パーク」は、ソーシャルメディアとしての機能の拡充を中心に、世の中の流れの2歩先を行きたいと考えています。もちろん、これまで同様、会員連携も色々なサイトと進めていくようです。

 その第1歩として、今年から「コカ・コーラ パーク」の認定ブロガーの制度をつくりました。主に主婦の方たちを対象に、景品を渡してその感想を聞いています。Webで調査は可能ですが、やはり生の声は質が違います。20〜30人のブロガーを集め、社員と向き合って話をすると積極的に提案があるのです。そうした機会を利用して、ユーザーの生の声についても集めることで、今後のサービス展開や企画作りに還元してくようにしています。

 企業でインタラクティブの重要性が理解され始めているものの、インタラクティブ担当者がスペシャリストである現状では、普及していないということの裏返しでもあります。インタラクティブは、すべての活動に必要なのです。マーケティング部門はもちろんのこと、広報、PR部門とも密接に活動しなくてはならないし、ソーシャルメディアの引き受け手も必要です。会社としては、そういう組織論を考えないといけない時期に差し掛かっています。


著者プロフィール

石黒不二代(いしぐろ ふじよ)

ネットイヤーグループ株式会社代表取締役社長 兼 CEO

ブラザー工業、外資系企業を経て、スタンフォード大学にてMBA取得。シリコンバレーにてハイテク系コンサルティング会社を設立、日米間の技術移転などに従事。2000年よりネットイヤーグループ代表取締役として、大企業を中心に、事業の本質的な課題を解決するためWebを中核に据えたマーケティングを支援し独自のブランドを確立。日経情報ストラテジー連載コラム「石黒不二代のCIOは眠れない」など著書や寄稿多数。経済産業省 IT経営戦略会議委員に就任。



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