アニマルスピリットで行け――元産業再生機構COOの日本再建論世界で勝つ 強い日本企業のつくり方(3/5 ページ)

» 2010年02月25日 08時00分 公開
[聞き手:怒賀新也, 土肥可名子,ITmedia]

清潔で安全な日本からは分からない

 社会主義体制の崩壊も民主主義の勝利というよりは、国家が経済的に破たんしただけだと思っています。歴史上、革命のようなドラスティックな事件が起こる場合は、食えないという問題と政治的な自由という問題がオーバーラップしている場合がほとんどです。わたしは、政治体制などの要因が経済成長を押し下げることはないと思っています。

 経済発展にとってはむしろ政治体制よりも、当該経済社会ルールにおいてどこまで法治主義が貫徹されていて、予測可能性があるか、法律による支配がどこまで行きとどいているかの方が重要です。もちろん完全な法治社会というものはありませんし、どの国も法治と人治の組み合わせですが、法律によって物事が決まる、誰でも共有しているルールで物事が決まる方が、予測可能性が高まりますから、みんなが安心して経済活動を営めるわけです。

 この法治か人治かというのは、実は社会主義か民主主義かの問題ではありません。例えば香港。英国が帝国主義的な統治をしていた国だけど極めて法治型の社会市場経済ですし、シンガポールもそうです。中国の場合も、今後国家法治主義というものを徹底するかどうか、そちらの方が重要です。

日系で初という戦略系コンサルティング企業を立ち上げた冨山氏は、座学よりも現場を重視している

 新興国の勃興というのは、極めて生存本能に近い、いわば「アニマルスピリット」で起きているものだから、清潔で安全な場所でモノを考えている日本人の感覚だけでとらえるのは危険です。リアリズムがありませんから。

 もちろん生産活動をどこでやるかという競争はあります。同じ仕事を中国なら10分の1の労賃でできると言われれば、仕事はそっちに行ってしまいます。最低賃金を上げるのは構わないけど、そうしたら仕事が来なくなります。オール・オア・ナッシングの世界ですよ。もちろん、中国人の所得水準も上がるだろうし、それが日本に近づいてくれば状況は変わりますが、一気に同レベルにはなりません。だから、仕事を維持したいなら中国でできないことをやるか、10倍の生産性でやるかです。そうしないと仕事は回ってきません。

 ただし、中国にできないことといっても、高度なスキル、いわゆる「ウルトラ匠」の世界で何とかなるのは全体の多くて2〜3割でしょう。あとは、日本的な感性がものをいう「Cool Japan」(クールジャパン)の世界くらいで、残念ながら他の分野には本当の意味では非代替的なものはありません。ここでなきゃいけない、日本でなきゃいけないというものとしては、例えば観光が挙げられます。法隆寺は日本じゃないと見られません。実際に、欧州の多くの国は観光を主要産業として育てています。

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