「世界のスタンダードに合わせた戦略を」――カルビー・松本会長石黒不二代の「ビジネス革新のヒントをつかめ」(1/3 ページ)

カルビーの松本晃会長は、ビジネスマンとしてのこれまでの長いキャリアの中でいまだ負け知らず。その秘けつはどこにあるのでしょうか。経営戦略に迫ります。

» 2010年03月25日 08時15分 公開
[石黒不二代(ネットイヤーグループ),ITmedia]

 わたしは、カルビーのスナック菓子商品「Jagabee」の大ファンです。スナック菓子を頻繁に食べる方ではないのですが、この味や食感を開発できる会社はすごいなと思っていた矢先、新しい代表取締役会長兼CEOとして同社の指揮をとるようになったのが、Johnson & Johnsonの代表だった松本晃さんと分かり、プロダクトと先進的な経営が結び付くとどんな結果が生まれるのかが楽しみでインタビューを申し込みました。

 案の定、お話を伺ううちに、クリアな経営方針に感銘を受けました。ビジョンを示すことが苦手な日本企業にとっては、良いお手本になるのではないでしょうか。

高品質かつ儲かる仕組みを

カルビーの松本晃代表取締役会長兼CEO カルビーの松本晃代表取締役会長兼CEO

 松本さんのキャリアは、うらやましいことにずっと勝ちっぱなしだそうです。そのコツは、まず勝ち目のない勝負はしないという賢明な選択がスタートラインなのです。その意味では、松本さんはカルビーを勝てる会社と考え、経営の手綱をとることに決められたようです。

 松本さんは、カルビーを品質にこだわる会社と定義しています。昨年60周年を迎えたカルビーですが、最初の10年は苦労の連続でした。しかし、ある日、小麦粉と瀬戸内海のえびをつかって開発した「かっぱえびせん」が歴史的なヒットとなります。また、同社の定番商品であるポテトチップスは、本場の米国を真似つつも、米国よりいいものを作ろうという思想の下に生まれた製品でした。最近のじゃがりこ、Jagabee、じゃがポックルなどのユニークな製品も好評です。

 イノベーションの会社であるカルビーが、「品質」と言い始めてから30年が経ちました。同社の問題は儲かっていないことでした。品質にこだわるが、コストや儲けにこだわりがないのです。例えば、カルビーは原材料にこだわります。売り上げの8割がじゃがいもを原料としており、じゃがいもは北海道の契約栽培の農家から提供されています。できたものは全部買うという契約だけでなく、品種改良や栽培の仕方を支援して、インセンティブを支払っています。油も普通のパームオイルの倍以上の値段の米の油を約半分使用しています。

 カルビーでは、製造現場でも食の安全や品質を徹底的に追求します。工場の従業員は宇宙服のようなユニフォームを着てラインの清潔を保ち、出来上がったポテトチップスは、一様にきれいな色と大きさが保たれています。賞味期限と製造日をパッケージの前面に記載するということも業界でカルビーが最初に始めました。賞味期限120日であれば、お店に120日以降残ることはないシステムになっていますが、その鮮度を守るために、たくさんの人が動きます。

 この企業文化は、創業以来のこだわりで、製造に工夫していいものをつくろうという精神が会社中に根付いています。しかし、これは裏を返せば、だから儲からないということにもなります。松本さんの考え方は、もちろん、コスト重視で品質をないがしろにするというものではありません。Johnson & Johnson時代に培った経営方針はあくまで顧客重視の考え方で、下の4つが同様に大切だということです:


(1)品質(安全)

(2)コスト

(3)供給(流通)

(4)取引先


 具体的には、品質を重視するのは当たり前だが、同時にコスト意識を持つということ、そして、供給については、お客さまが足を運んだお店に「在庫なし」はやめようということ、そして、取引先にも利益を出してもらうということです。なぜなら、このうち1つでも欠ければ、企業や製品は存続しないため、そうなれば、お客様にとって最も困った結果、すなわち市場から製品がなくなることになるからです。

 経営陣が交代することは、企業にとってはチャレンジングなことです。特に、日本企業で外からトップを招聘するケースはまれです。松本さんの場合はこれにあたります。そこで、松本さんの人心把握術を聞いてみました。

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