三菱自動車とサムスン:それぞれの標準化と戦略モノづくり最前線レポート(2/2 ページ)

» 2010年03月26日 16時30分 公開
[原田美穂,@IT MONOist編集部]
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徹底したR&D、マーケティング重視と人材育成

 新技術の標準化活動にはそれなりの人的・資金的投資が必要なことはいうまでもない。サムスンはこうしたコストを排除する一方で人材育成や研究開発、デザインの領域には積極的な投資を行っている。

 そもそも(徹底した業務プロセス効率化を実現したからこそいえることではあるが)生産計画、需給調整、サプライチェーン管理……といった、量産体制以降のプロセスは、「既存の施策によって極限化しており、これ以上の改善活動を行ったとしても劇的なパフォーマンスを得られない」(小黒氏)という前提がある。ここには大きな投資をしても利益が少ない、という判断だ。

 つまり、サムスンではプロダクトライフサイクルで見た場合、いままで手付かずになっていた量産体制より以前の研究・開発やマーケティングの領域に注力した方がパフォーマンスを得られると考えている。

 デザインチームに対しては、毎年いくつのデザインアワードを受賞できるかが、1つの評価指標となっているという。アワードを受賞できるレベルのインパクトを与えられる製品作りが常に要求されているというわけだ。事実、同社が手掛けた製品の受賞数は非常に多い。

「SAMSUNG DESIGN」として『Business Week』誌に紹介された際の表紙デザインを示す小黒氏 「SAMSUNG DESIGN」として『Business Week』誌に紹介された際の表紙デザインを示す小黒氏

 グローバル市場という観点からは、マーケティング人材育成に向けた取り組みが注目される。すでに各所で語られている通り、サムスンには「地域専門家」が約4000人存在する。地域専門家は希望する地域で自力で生活し、その地域の生活習慣を体で覚えるというもの。その間は定期的に提出するレポート以外の業務は免除されるが、一方で現地文化に親しむためのサポートなどは一切行わないという。地域専門家制度に採用されたスタッフは生活上必要なことがらにすべて自力で対処しなくてはならないため、非常に過酷なタスクではあるが、プログラム終了時には現地の細かな市場ニーズを掌握できる人材となるという。

 いずれにしても、すべてをコスト削減の視点だけで評価するのではなく、長期的視点から企業体力強化のための投資をじっくりと行っている姿は参考になる部分も多いのではないだろうか。

Vehicle to X時代の共通インフラを目指す三菱自動車

 再び三菱自動車のセッションに話題を戻そう。

 ガソリン車が電気自動車に変わるならば、それにかかわるサービス、システムも影響を受けないわけではない。経済産業省の「低炭素社会モデル事業」の一環として、新潟県、東京電力、地元企業と共同開発した『助っ人EV』を例に、“Vehicle to Vehicle”(車間での充放電)など、新しい社会インフラの可能性について言及した。

 「電気自動車の場合は排気ガスを出さないわけですから、屋内のリビングルームに駐車することだって非現実的ということはない」(和田氏)

 和田氏によると、電気自動車/車載蓄電池はガソリン燃料車の代替という枠組みの中で開発されてきたが、蓄電可能であることと電力供給が可能であることを考慮すれば、移動可能な電力供給インフラとしての利用も検討できるようになる。例えば、電力不足になったEV車に対して充電したり(Vehicle to Vehicle)、車両が持つ電力を宅内家電製品へ放電(Vehicle to Home)することも可能になる。

 こうなってくると、もはや当初のガソリン車の代替品という枠組みを超え、電気自動車そのものが価値を提供しだす世界が見えてくる。動力を持ったインフラとしての新しい可能性を持つ電気自動車が作る世界を想起せざるを得ない。むろんこのためには、充放電に関する法整備などが必要となるだろう。

 「将来的にはホームエレクトロニクス系製品との連携や行政との連携なども考慮する必要が出てくる」(和田氏)

 社内の垂直統合型ではなく、外部企業・組織との積極的なコラボレーションが重要になる、という考えだ。分野を超えた企業連携によって大きなインパクトのある社会インフラの提案がそう遠くない未来に可能となるのではないだろうか。

◇◇◇

価値創造のために

 本稿では、分野を超えた企業連合で価値を作り出していこうと考える三菱自動車工業と、グローバル市場を考慮した人材とマーケティングに注力するサムスンの2社の講演内容から、筆者が注目したポイントをピックアップして紹介した。

 両社の戦略そのものはまったく異なるが、双方がともに「価値創造」と市場づくりを目指したダイナミックな取り組みを行っている。もちろん、こうしたダイナミックな戦略を生かすためには、企業内外の人・モノ・情報のインフラやプロセスがきちんと整理・統合された環境があることが大前提ではあるが、根底にある思想は理解いただけたのではないかと思う。

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