顧客企業の調達活動・戦略を理解した営業活動低成長時代を勝ち抜く営業・調達改革(2/2 ページ)

» 2010年05月26日 07時00分 公開
[小崎 友嗣(A.T. カーニー),ITmedia]
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 取り扱っている商材の汎用性が高い場合に、顧客企業がとりうる調達(交渉)戦略は、ダイヤモンドの左半分にある1.ボリューム集中、2.ベンチマーク(相見積り)、3.グローバルソーシングである。それぞれの戦略に対する売り手の打ち手を紹介する。

 価格交渉の基本となる1.ボリューム集中に対しては、顧客社内の組織体制や調達プロセスを理解した上で、可能な限り部門横断的な受注ボリュームの集約を、また、地域についても、できるだけ広範囲な地域を集約の対象とすることを逆提案し、顧客からのトータルの売り上げ拡大を狙うことが重要である。

 2.ベンチマークや相見積りへの対応は、市場で一般的に入手可能な汎用品については、戦略的な低価格を示しつつ、収益を確保しやすいその他の高付加価値な品目やサービスも含めたバンドリングでの提案が必要である。また、取引量が増えるに従い単価が逓減するような、売上を加速するスキームの提案なども有効である。3.グローバルソーシングに対しては、海外での供給能力そのものを高めることは当然であるが、新興市場での調達材と比較したときの品質・サービスにおける比較優位性は必ず主張すべきである。また、顧客の地域毎に異なったニーズが有り得るので、個別地域ごとでの対応も重要となる。

 取り扱っている商材が相対的に特殊な場合の戦略は、ダイヤモンドの右半分にある4.仕様変更 5.協働プロセス改善 6.関係再構築 となる。このような商材を提供している場合には、売り手の交渉力が比較的強いので、顧客の調達部門の取組み優先順位も劣後し、価格交渉が行われにくいのが通常である。

 だが、これらの視点に立った付加価値のある提案を顧客企業に行っていかないと、長期的安定的な取引関係は期待できない。

 4.仕様変更の視点からは、顧客が気づいていないような仕様簡素化や標準化によるコスト低減の可能性の逆提案、5.協働プロセスの改善では、顧客企業と関連する全てのプロセスを通じてコストを最小化していく姿勢を基本とし、歩留まりなどの顧客の使用数量の低減のための支援・提案や、発注予定の早期共有による生産平準化によるコスト低減など、顧客企業との協業の進化によるコスト低減に向けたプロセス改善の提案、6.関係再構築の視点からは、顧客ニーズに対応すべく、提供する製品やサービスを柔軟に組み合わせたカスタマイズされたソリューションの提案や、バリューチェーン上の役割分担の見直し提案などが有効である。

 さらに、さまざまなコスト低減の取り組みに必要となる投資リスクやコスト削減効果を分け合うようなプロフィットシェアの仕組みの提案などが有効である。

 また、4から6のプロセス・関係性見直しによるコスト低減提案は、汎用性の高い商材でも十分有効であり、調達コスト抑制に取り組んでいる顧客に対する非常に有効な営業提案の視点となる。

 このように、調達コスト削減が多くの企業で取り組まれている低成長時代には、顧客企業に対し、調達戦略を踏まえた1から6の視点からの付加価値提案を行い、調達部門も含めた顧客企業からの信頼を勝ち取ることが生き残りに不可欠である。そして、人間関係や価格だけで勝負する単なるサプライヤーから、顧客企業の事業活動を支える戦略パートナーとしての地位を獲得して初めて、顧客との中長期の安定的な取引と取引価格の維持が可能となるのである。

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著者プロフィール:小崎 友嗣(こざき ともつぐ) A.T. カーニー株式会社 プリンシパル

小崎 友嗣

東京大学工学部卒、カーネギーメロン大学経営大学院修了(MBA with University Honors)  日本生命保険相互会社にて経営企画、商品開発を担当し、A.T. カーニー入社。同社戦略オペレーション・プラクティスのコアメンバー。日本を代表する企業の変革を戦略とオペレーションの両面から支援。顧客企業との一体感・納得感醸成による実効性担保にこだわったコンサルティングを実施。著書に『最強のコスト削減』(東洋経済新報社)


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