大手コンピュータ3社のクラウド戦略伴大作「フクロウのまなざし」(1/3 ページ)

経営に携わる方も、唐突に出てきたようにも見える「クラウド」について、知識を持つことが重要と考える。

» 2010年05月28日 13時24分 公開
[伴大作,ITmedia]

 クラウドに関するコンピュータベンダーの動きが活発になっている。企業経営に携わる方にとって、唐突に出てきたようにも見える「クラウド」について、ある程度、知識を持つことが今後の経営を担う立場を考えると重要なことだと思う。

 クラウドという言葉だが、おととし暮れから急に話題になり始めた新しいワードだ。ただし、その実態に関しては、関連するテクノロジーも多いことや、どちらかというとGoogleとかAmazonのような米国の新興ユーザー主導という側面が強いため、ベンダー主導のテクノロジーではなかった。

 しかし、その動きにIBMがコミットし、クラウドビジネスに本格参入を表明したことで一気に流れが変わった。国産ベンダーにとって、「海の向こうの話」程度に考えていたものが急展開した形になり、追随できなかったという側面がある。

 その上、日本のユーザーの情報システム部門は、クラウドに関するマスコミ報道も少なく、ベンダー各社からの情報も限られているため、戸惑っているのが実情だ。

 僕はクラウドコンピューティングを、この技術のベースとなったグリッドの時代から延々と追っかけてきている。その経験から、今年になり、ユーザーの関心も盛り上がってきたので、ベンダー3社に現状と見通しを聞いた。このコラムを読んでいただいている企業経営に携わる方が、今後のICTの判断材料の参考としていただければ幸いだ。

3社の取り組みの現状

 4月13日に日立製作所、15日にNEC、24日には富士通と面談し、各社の取り組みの現状と市場の将来性、市場拡大に関する問題点などについて聞いた。

 最初の日立製作所は企画本部プロモーション推進部小川秀樹氏、同じく主任技師、音瀬三智子氏が対応してくれた。NECはOMCS事業本部長、東健二氏、富士通はクラウドサービスインフラ開発室長、岡田昭弘氏がそれぞれ自社のクラウドビジネスに関して詳しく説明してくれた。

 現時点において、3社の中で最も対応が進んでいるベンダーは、上記でも分かるように既に専門部署を設けている富士通だ。ほかの2社はクラウドサービスに関して、IBMがクラウドを前面に大々的に押し出しているので、対抗上、取りあえずクラウドを掲げている段階と判断した。(5月27日、日立はクラウドソリューション「Harmonious Cloud」の事業推進体制を強化すると発表した)

 ただし、2社の内、日立は「自治体クラウドサービス」を発表した点で、若干NECに先行しているのかもしれないが、その差はわずかだ。

 今回の取材で各社がクラウドへ取り組み始めた時期を聞いたが、おととしの暮れとほぼ同時期のスタートと回答したので、現時点における差は各社のトップがクラウドへどのように反応したかの差異が現れたと考えるのが自然だ。

3社三様

 ここで、ベンダー3社のクラウドビジネスに関する実情を以下に記す。

 富士通は2010年10月にも世界5カ所(日本館林、英国、ドイツ、米国西海岸、シンガポール)のデータセンターで「トラステッド・クラウド・サービス」を始める。このシステムは、同社浜松町の評価センターで2009年7月に稼働したシステムが原型となっている。

 さらに、もっと大規模にしたものが沼津事業所でサービスやソフトウェア開発で稼働している。もちろん、同社のクラウドシステムはいわゆるIaaS、PaaSレベルにとどまっていて、SaaS段階、APIを公開するパブリッククラウドのようなものとは程遠い。しかし、IAサーバとしてLinuxやWindowsのアプリケーションを実行する環境は完全に整っている。

 2番手と僕が評価している日立製作所は「Harmonious Cloud」を掲げている。同社の場合、主要なユーザーが自社グループあるいはJRや東京電力など大手企業ということもあり、これまで対応が進んでいなかった。

 しかし、中西宏明氏が社長に就任した途端、流れが変わった。加えて、2009年7月に統合を進めていた日立情報システムズ、日立ソフトウェアエンジニアリング、日立システムアンドサービスなどソフト関連3社を完全子会社化し、統合の成果が現れてきた。IBMと強いつながりを持つ中西氏が社長になったことで、クラウドへの傾斜は一層強くなった。では、彼らがどのような分野でクラウドの活用を進めようとしているのかが重要になる。

 上記したように、日立はJRや東京電力など公共システムで大きな実績を上げている。JRは昔からのMARS(マルス、座席予約システム)やカードシステムのSuicaなどITの利用が進んでいるが、今後ますます情報化を推し進めていくに違いない。

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