ポスト鳩山政権の見極め方――東大の伊藤元重教授(2/2 ページ)

» 2010年06月04日 10時36分 公開
[怒賀新也,ITmedia]
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縮小均衡経済への大波

 関連した数字で、アジアにおける中間所得者層(年間所得5000ドル以上)の数は1996年が1億6000万人。これが2008年には8億8000万人に増えた。富裕層を入れれば9億5000万人に上る。これが、次の10年でさらに5億人増えると見込まれている。

 この数字が意味するものは何か。日本企業は、アジアを中心としたグローバル市場に出なければ今後収益は頭打ちである、ということだが、それだけではない。もっとこわいのは「日本にもいられなくなるかもしれない」リスクだという。伊藤氏は、台湾のメーカー、Foxconnの例を挙げる。従業員55万人を抱え、AppleのiPhoneやXperiaなどの生産を一手に引き受けている。

 「10年後、中国はGDPで日本の3倍の規模になる」。その中国の製品が、グローバル経済の中で今以上に日本に押し寄せてくるのは必至だ。

 人口減を見込む日本において、日本企業が取るべき選択肢は、身の丈にあった形でのグローバル展開と製品の差別化。さらにもう1つとして、残念ながら起こるであろうサバイバルレースへの参画だ。

 「この20年間、日本では一度もデフレギャップが解消していない」。デフレギャップとは、総供給が総需要を上回っている状態。つまり、ある業界のすべてのメーカーが製品を生産した場合、その生産量よりも消費者の需要が20年間常に小さかったことになる。逆に上回っていればインフレギャップということになる。

 「多くの業界で、今後デフレギャップが解消されることはない」(伊藤氏)

 これを前提にした場合、次に起こることとして容易に想像できるのが厳しいM&A競争だという。

 少子高齢化によるビールへの需要減を見込んだキリンビールは、同業ながら異なる製品ラインを持つサントリーとの統合を図った。結果的に破談に終わったが、将来を見据えた企業戦略としては当然の動きだと伊藤氏は指摘する。

 ガソリン業界にも注目すべきという。低燃費車や電気自動車の普及により、ガソリン需要の減少は既に目に見えた未来だ。今、ガソリン各社が考えているのは徹底的な撤退戦略。「エクソン・モービルはガソリンスタンドを6割減らす」ともいわれる。新たな時代に適応するために、競合他社を退け、生き残るための冷酷な縮小戦略を余儀なくされる可能性がある。このように、いったんかがんだ後、縮小均衡を実現した後に、将来に向けたジャンプができるような戦略を描き始めていると伊藤氏はみている。

 では、日本企業が成長するための鍵は何か。同氏はやはり、ユニクロのSPAモデルを筆頭事例とした、ビジネスモデルの構築を挙げた。ユニクロのモデルは、少品種大量生産をモデルとし、素材の大量買い付けによる低価格戦略を軸にしている。それを国内の800弱に上る店舗とインターネットを使って大量に売りさばく。後発企業がまねしようと思っても同じ規模、ブランド力をすぐに用意するのは難しい。「製品、ブランド、ビジネスモデルの3つが成功の条件」だとしている。

 「企業ができることは3つ。もっとがんばること、競争相手を(もちろん合法的に)抹殺すること、差別化すること。もしかすると2番目が一番大事かもしれない」(同氏)

 「脅し」を交えながらも、日本企業の未来の成功へのヒントをささやくにように語りかける伊藤氏の話に、多数集まった来場者は聞き入っていた。

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