荒川静香さん、竹中平蔵さんが語る「夢」の力(1/2 ページ)

日立システムアンドサービス主催のセミナー「Prowise Business Forum Executive Day 2010 未来を紡ぐ」が開催された。アスリートの荒川静香氏や、慶應義塾大学教授の竹中平蔵氏が「夢」について語った。

» 2010年06月07日 12時10分 公開
[岡田靖,ITmedia]

 5月20日、日立システムアンドサービス主催のセミナー「Prowise Business Forum Executive Day 2010 未来を紡ぐ」が開催された。混迷を深める日本の社会情勢に、1つのヒントを与える内容であった。

 日本を含めた世界経済の先行きは不透明だ。さらに、日本では政治の混乱も続いており、ついに政権が交代した。なかなか明るい未来像を描きにくいと考える人が多いはずだ。

 今回の「Prowise Business Forum Executive Day 2010 未来を紡ぐ」は、株式会社日立システムアンドサービス(日立システム)が主催、日立ソフトウェアエンジニアリングの協力で開催された。両社は2010年10月1日付で合併し「日立ソリューションズ」になることが決まっている。その「未来像」をどう実現するかは、これからの両社の活動によって決まる。セミナーは、そんな決意が見えるような内容だった。

「大きな舞台で魅せたい」という夢

 『夢を紡ぐ』と題した特別講演に出演したのは、プロフィギュアスケーターの荒川静香氏。2006年のトリノオリンピックで金メダルを獲得した後にプロ宣言。現在はアイスショーやテレビへの出演を通じてフィギュアスケートの魅力を伝え続けている。

「“もうちょっとやっておけばよかった”と思うようでは、気持ち良く終わることができない」と語る荒川氏

 5歳から始まったスケート人生では、早くから頭角を現した。全日本ジュニア選手権3連覇に続き、全日本選手権2連覇と輝かしい成績を残してきた。荒川氏自身は「誰かに勝つことが目標ではなかった」と語る。

 「そもそもフィギュアと出会ったとき、競技という意識はなかった。ヒラヒラした綺麗な衣装を着て、くるくる回る様子に魅せられ、わたしもそういうふうにしてみたいと思った。1つできるようになってくると、さらに新しいプログラムに挑戦してみたくなり、新鮮なことの連続。各地を巡る遠征が楽しみになっていった。それこそ“オーストラリアで開催される世界ジュニア選手権に出たいから日本のジュニアに勝ちたい”といった気持ちでやっていて、その夢の先に五輪があった」(荒川氏)

 しかし、そんな荒川氏に世間は強い期待を寄せるようになった。最後の舞台にするつもりで挑んだ2004年の世界選手権では、技術点で満点の6.0をマークする会心の滑りで優勝。これで本人は満足だったというが、2年後のトリノ五輪の最有力候補として注目されるようになってしまう。強い期待を背負い、選手を続けることにしたものの、気持ちが入らない。精神的に苦しい状態で1シーズンが過ぎたころ「このままで終わるのは嫌だ」と思うようになった。満足できる結果を出すために、あらゆる手を尽くしたという。練習に練習を重ね、さらに五輪直前にはコーチの交代や曲目の変更も行っている。

 こうして最高の舞台で最高の結果を出した荒川氏。その夢の実現を支えたのは、家族やコーチ、所属先企業など周囲の支えと「後悔したくない」という思いで続けた不断の練習だ。今も氷上の舞台に立つ生活の中で、練習は欠かさない。それは、「最後にスケート靴を脱ぐとき、満足したと思えるように」という考えもあるという。

 「むしろわたしは、競技としての面にのみ注目していたのでないからこそ長続きしたのだと思う。夢へとストレートに進んだわけではなく、いろいろな経験をしてきたが、その中から得られたことも多い。寄り道も無駄な時間ではないと思う。それよりも、1つ1つの物事に対し、そのときそのときで向き合っていかないといけないのではないか。まず夢を持つことは大切だけど、その夢に直接関係するかどうか、あまり意識せず取り組んでいった方がいいと思う」(荒川氏)

本人と周囲が一体となってつかんだ夢

 大きな夢は多くの人々の支えがあってようやくつかむことができるものなのだろう。日立システムのスキー部にはパラリンピックの有力選手が所属しており、バンクーバー大会でも、クロスカントリースキーで新田佳浩氏が金メダルを2つ、太田渉子氏が銀メダルを獲得するなど活躍をみせている。今回のセミナーでは、このスキー部の監督で、ノルディックスキー日本チーム監督も務めた荒井秀樹氏が選手たちとともに登壇、バンクーバー大会の報告を行った。

「今後は日立ソリューションズのスキー部として、4年後のソチ大会を目指していく」と語る荒井氏

 クロスカントリースキー選手でもあった荒井氏は健常者。障害者競技にかかわるようになったのは長野オリンピック/パラリンピックのころだったという。選手たちは遠征試合などで旅費がかかり、また用具の費用も相当なものになるが、当時は今よりも支援する人や企業が少なく、その多くを自己負担でまかなう以外になかった。こうした状況の中、スキー部を発足させ、障害者スキー支援に乗り出したのが日立システムだ。その支援内容は、金銭面だけでなく人材や機材にも及んでいる。

 「例えば、社員の皆さんはコース各所の上り区間、下り区間などのタイム計測も手伝ってくれた。このデータは、選手の弱点を客観的に見極めるために欠かせない。また、ビデオで動きを解析し、ライバルとの違いを“見える化”できるようになった。各選手に合わせた用具の開発も進められた。クロスカントリースキーは個人競技と思われがちだが、支えるスタッフも大きな役割を担っている」(荒井氏)

 一方で、日本におけるスポーツ環境の成熟度の低さにも気付かされた。海外での大会に遠征すると、日本とは違い数多くのボランティアが運営を支えているという。加えて日本には、縦割り官庁の問題もある。オリンピックは文部科学省、パラリンピックは厚生労働省の管轄であり、連携は弱い。

 「スポーツ省のような組織があれば、もっと効率的に動けると思うのだが……。とはいえ長野大会から12年、日本でもパラリンピックの認知度は高まってきた。今後も、いろいろなところで選手たちが活動して、ファンを作っていくことが大切だと思う」(荒井氏)

右から、金メダルを胸に「一人でできることではない。この重さを実感する」と語る新田氏、「たくさんの人の応援をもらったことが力になった」と語る太田氏、「病床で見たパラリンピックが希望をくれた」と語る久保田恒造氏、「負傷してバンクーバー出場を諦めかけたが、出てよかった」と語る長田弘幸氏
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