調達コスト削減のための3つの成功のポイント低成長時代を勝ち抜く営業・調達改革(1/3 ページ)

今回は、調達コスト削減のための成功のポイントを説明する。間接材では、コストを統括的に管理している専門部門が存在せず、馴れ合いや、いわゆる聖域が生じていることも多い。

» 2010年06月09日 10時30分 公開
[島村哲広(A.T. カーニー),ITmedia]

 前回までは、売る側のオペレーション(営業)について論じてきたが、今回からは買う側(調達)のオペレーションの重要な論点とその解決への考え方を紹介したい。まず今回のPart3では、調達コスト削減のための成功のポイントを説明する。

 低成長時代を勝ち抜くための最重要論点の1つが「コスト削減」であることは言うまでもないが、その対象の大きさや取り組みやすさから、通常、取り組み対象として「調達費」に目が向けられることも異論なかろう。

 企業が調達する材にはさまざまな種類があるが、「コスト削減」の視点で最も注目すべきは「間接材」である。その理由は、間接材は一般に、短期間に大幅な削減を見込みやすい材だからだ。

 では「間接材」はなぜコスト削減を見込みやすいのだろうか。企業が外部から調達している材と言えば製造原材料、すなわち「直接材」を思い浮かべる方が多いと思うが、これについては専門の購買部門によって長年にわたりコスト削減に取り組んできているケースが多い。これに対し間接材では、コストを統括的に管理している専門部門が存在せず、馴れ合いや、いわゆる聖域が生じているケースなども見られがちだ。

 例えば、営業用の資材を営業部門が直接調達している場合、「営業取引」と称する馴れ合いに陥り、ほとんど言い値で調達していることは珍しくない。また、日本では子会社を通じて間接材を調達する例が多く見られるが、そうしたケースでは、社内での誤った認識の下、当該取引が聖域化し、調達価格が割高なまま放置されがちだ。さらに間接材は、コスト削減にあたり、直接材にみられるような複雑な設計仕様の見直しが必要ないことも多い。こうしたことから、一般に間接材のコスト削減は、直接材に比べて短期間で大きな成果を出せる可能性が高いのである。

 以上を踏まえ、本稿では「間接材」に着目し、その調達コストを短期間で大きく削減するための3つの成功のポイントを以下に紹介することとしたい。

成功のポイント1 相手を知る

 間接材の調達コスト削減を成功させるためのポイントの1つ目は、「相手を知る」ことだ。短期間で大きな成果をあげるためには適切な削減方法を選ぶことが重要だが、そのためには、調達している品目やそのサプライヤー=「相手」の特性や状況を正しく知ることが必要である。では、適切な削減方法を選ぶためには、どのような視点で「相手」の特性や状況を把握すればよいのだろうか。着目すべき視点は様々あるが、最も代表的な視点は「コスト構造」であろう。以下、「印刷費」を題材に、コスト構造に着目した特性把握の例を紹介したい。

 印刷費のコスト構造は、通常の人件費や機器の償却費といった固定費が中心となる。こうした固定費が中心の品目の場合、サプライヤーにとって固定費回収が損益上最も重要であるため、固定費回収後の価格引下げ余地が比較的大きくなる。従って、削減方法としては、発注の集中による発注量の確保とそれに併せたボリュームディスカウント要求が有効と考えられる。このように、相手を正しく知ることで、自ずと適切な削減方法を見出すことができる。

 ここでは、相手の特性把握の代表的な視点として「コスト構造」を挙げたが、他にも「ベンチマーク可能性の有無」「課金パターン」「サプライヤー間の競合状況」などの視点が、相手の交渉力の見積もりや適切な削減方法の選定に有効である。

 また、相手を知るという点では、品目別のサプライヤーの価格引下げ余地を見積もることも重要だ。価格引下げ余地の見積もりは、汎用性の高い品目であれば相見積もりなどを通じたベンチマーク価格との比較により試算できる。一方、作業を主体とするような個別性の高い品目の場合はベンチマークの取得が難しいため、試算にあたって商品・サービスの提供に掛かるコストを分解・推計し、適正価格を見積もる「原価推計」という手法を使う必要がある。

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