「復権」を賭け反転攻勢に出る近鉄百貨店冬の時代が続く百貨店業界(3/3 ページ)

» 2010年08月09日 08時00分 公開
[浅井英二,ITmedia]
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 同社は昨年5月、MD統括本部を発足させ、それまでは店舗ごとに個別に行われてきた仕入れの計画を本部に一元化した。いわゆる「チェーンオペレーション」の強化だ。それまで業務改革部を率い、売り場の効率化に取り組んでいた岡本氏にMD統括本部の立ち上げが任された。

 「売り場の業務改革では、お客様に接する仕事とそうでない仕事に分け、分単位で分析した。前者は売り場の社員が、後者は売り場を横断したり、店舗を横断して集約し、効率化していくべきだと考えたからだ」と岡本氏は振り返る。

 本部による一元管理は、業務の効率化はもちろん、取引先の集約化による取引条件の改定にもつながり、収益を改善できる。また、近畿を中心に展開する13店舗の中には、規模の小さな郊外店もある。消費が冷え込む中、アパレルメーカーや問屋は、委託販売が多い百貨店では売れる店舗にしか納入したがらない。本部による一元管理では、郊外店への商品調達もでき、品ぞろえや商品の質を保つことができるという。

情報システム再構築、顧客情報と商品情報をクロス分析へ

 ただ、チェーンオペレーションを強化するためには、情報システムの再構築が必要だった。13店舗の売り上げを店舗別、部門別、商品別に把握し、分析しなければならない商品情報が、旧システムではその集計に時間がかかりすぎるうえ、これまでは担当者ごとにExcelでばらばらに管理されていた。また、将来を見据えれば、顧客情報と商品情報をクロス分析し、より顧客目線に立ったきめ細かい商品計画や営業活動も求められる。

 「みんなが同じ情報をベースに、ポータルを介して、売上推移などの定型情報にアクセスしたり、仕事の役割に応じてカスタマイズしたり、分析のパターンや結果を共有できなければならない」と岡本氏は話す。

 情報システムの再構築にあたっては、百貨店業界での実績を評価してTeradataを採用した。「売り場の業務改革では同業の大丸松坂屋百貨店を参考にさせていただいた。彼らがTeradataを採用していることも決め手となった」(岡本氏)

百貨店は質の高いサービスがビジネスを支えている

 仕入れや販売の一元化を進め、接客以外の仕事の集約化とIT活用を積極的に進める近鉄百貨店だが、「百貨店は売り場の社員によって支えられている」と岡本氏は考えている。

 「希望退職者を募ったばかりで現場の社員も減っているが、百貨店はお客様への心のこもったサービスが販売につながる。どれだけ多くの社員を接客に回せるか、ITに期待するところは多い」(岡本氏)

 店舗ごとに購買傾向などの細かな分析を行えば、コンビニエンスストアのように棚割をITが支援できるだろうし、需要の将来予測から自動発注するなど、発注業務の省力化も期待できる。

 また、近鉄百貨店のような、いわゆる電鉄系百貨店は沿線住民を中心にした根強いファンに支えられている。こうした顧客層の心をしっかりとつかめば、熾烈な競争にも勝ち抜けるはずだ。幸い、2011年度を目途に近鉄と共同で新しいグループカードを開発・導入し、顧客の囲い込みと購買履歴の分析による販売促進などに生かす計画が進んでいる。こうしたポイントカード施策において同社はやや出遅れたものの、関西の雄、近鉄グループ約130社の強みを生かせば、十分巻き返せる。

 「売り場の業務改革やマーチャンダイジングの本部一元化には、売り場の全社員に参加してもらい、どんな売り場にしたらいいのかを考えてもらった。徐々に意識も変わってきている。今後は、MD統括本部の中にCRM部門をつくり、買上履歴を分析、販促施策や品ぞろえの計画などに生かしていきたい」と岡本氏は話す。

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