クラウドコンピューティングで企業の戦略はどのように変わるのか。 「戦略IT投資」「社内ITナビゲーター」「IT業界の観点」などの視点から話してもらう。
事業会社の中では、ユーザー部門・システム部門・及び経営層がITに関わっている。これまでは次のような機能が要請されてきた。ユーザー部門は、部門の戦略に照らして必要なITを規定し、部門のITニーズの優先順位付けをした上で優先案件の要件を定義する。経営層は、経営の方向性を示し全社最適の見地から投資判断を実施。システム部門は、経営層に対する意思決定支援、経営判断に沿ったIT資源の配分、ユーザー要件をシステム要件に変換してベンダーに伝える橋渡し、および全社インフラの企画・維持であった。
しかし、期待と実態には乖離がある。経営層の意思決定機能や全社最適・牽制機能が機能せず、声の大きいユーザー部門の言うがままとなりIT投資が部分最適化される、という状況が散見される。そんな中でシステム部門は、ユーザーほど業務が分からず、ベンダーほどITを知らない。経営からは、膨大な金がかかっていながら良く分からないITに関する不満の矛先が向けられる。ITに対するガバナンスや投資ポートフォリオの最適化が求められながらも、実態、周りからの認識ともにシステム部門は付加価値が薄く、自らの位置づけに悩む、という構図である。
クラウド時代にはシステム部門に求められる機能が変質する。全社最適のIT投資ポートフォリオを構築するIT戦略企画機能には、IT投資の枠を左右するクラウド導入範囲の仕分け、が組み込まれる。更に、ユーザー部門とベンダーの橋渡し機能も変わる。ITが「所有」から「利用」に変わることで、ITユーザー企業の調達行動も、欲しいITを作る、から、最適なソリューションを選ぶ、に変わる。
作るに際し、要件を定めるユーザーとシステムを作るベンダーの間に、要件をシステム語に翻訳する仕事が介在した。そこにシステム部門の初期的な存在価値があった。(今では実質形骸化しているケースも散見されるものの)利用に変化すると、独自のシステムを作りこむのではなく、ユーザーが最適なサービスを選ぶことになる。
クラウドにベンダーが殺到し各アプリケーション領域に数多くの類似サービスが氾濫するであろう中で、自社・当該部門にとっての最適なサービス選定をコンサルテーションする、更には、ベンチマークとなる業務プロセスを業務部門に提案するという、高付加価値な社内サービスを提供する余地が生まれる。「橋渡し」が単なる翻訳機能から社内ITナビゲーション機能へと変質する。
クラウドでさまざまな汎用的サービスが提供される際、自社にとっての最適サービスを目利きする機能、及び外部のベンチマーク・動向を仕入れ自社業務を最適化する機能、である。この機能を果たすためには、新サービスの状況含めたIT動向を広く把握すること、遠くない将来のユーザーニーズを把握すること、ベンダーに対して要件の刷り込みやサービスレベル管理をすること、自社業務を最適サービスにあわせることも含めて業務とITを統合した最適モデルを検討しユーザー部門に提案すること、が必要になる。すなわち、外部IT環境と内部ユーザーITニーズをマッチングしユーザー部門をガイドする機能、これが社内ITナビゲーション機能である。
ITナビゲーターに求められる人材要件も新たなものになる。
スキル面では、プロアクティブな提案のためのビジネス及びITの構想力、最適ソリューション見極めのための合理的な分析力と目利き力、及びユーザー、ベンダー含む関係者の合意を取り付け動かしていくコミュニケーション力が従来にまして必要となる。
モチベーションも同様である。内部(自社・IT)ではなく外部を向く外向性。受け身ではなく進んで動く能動性。指示待ちではなく自ら判断する主体性。新たなものを受け入れ、創り上げる創造性。このようなモチベーションを備えた人材が必要になってくる。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授