「おひとりさま」の本当の意味――きき酒師・エッセイスト 葉石かおりさん嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(7/7 ページ)

» 2010年08月28日 10時20分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]
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 本記事をきっかけに、日本酒の世界に興味を持つ人が1人でも増えるならば筆者としても望外の幸せであるが、さらに一歩踏み込んで「ゆくゆくはきき酒師になり、それを本業にしたい」と思う人がいた場合、それは実際問題として可能なのだろうか?

 「きき酒師に限ったことではないかもしれませんが、夢=決意だと私は思っています。夢が夢で終わるかどうかは、自分の決意次第だと。自分はどうしたいのか、確固たるものを持っていれば、自然とフットワークが変わってきます。特に、きき酒師としてやってゆくのであれば、時代を読む力と、それを社会に向けて発信する力が求められます。お酒の知識だけではダメなんですね。もっと多面的に物事を見なくては。どんなことにも旺盛な好奇心をもって、常にアンテナを張り巡らせ、何でも自ら体験してゆく積極性、フットワークの軽快さは大切です。

 それに加えて大事なことは、頭の柔軟さです。決して固定観念に捉われることなく、常にニュートラルでいられるかどうか。自己をしっかり持ちつつも、状況に応じて、自在に変化してゆくことができなければ、結局、時代の潮流を正しく把握することも、それを情報として発信することもできなくなりますから・・・・」

 人間性とか、コミュニケーション能力に関しては、いかがだろうか?

 「それはやはり、"感謝"の気持ちを持って生きているかどうかだと思います。布団を干して潜り込んだときの幸福感とか、ビールをひとくち飲んだ瞬間の幸福感とかあるでしょ? そういう小さな幸せに感謝することの積み重ねが大切だと思いますよ。そういう"感謝"の心があれば、自然と、人を大事にしますよね。

 人に対しては、とにかく"思いやり"の一言だと思うんです。どうしたら相手が喜んでくれるか、どうしたら心地いいかを常に考えること。これに尽きます。普段の生活も実は大事。びろうな話で恐縮ですが、トイレを使った後、次の人のために、きちんと流れているか確認するというのも、それに当たります。ちょっとでも汚れていたら掃除をする。当たり前のことですが、この当たり前ができていない人が世の中にはごまんといるのです。お育ちがバレるというか、自分のことしか考えていないというか……悲しいかな、こういう人があまりにも多いですよね。

 常に相手の立場になって考えていれば、自然と体が動くようになります。これは日々の訓練あるのみ。これを体得した人から人生は開けると思うんですね」

 「それを本業として食べてゆける人はほとんどいない」とされるきき酒師の世界で、確固たる地位を築いている葉石さんならではの言葉の重みを感じるのは、筆者だけではあるまい。

 

明日に向けて 〜これからは、"デンタルIQ"の高さが勝敗を分ける?

おひとりさまの京都 葉石さんの京都ブログを元にまとめた著作『おひとりさまの京都』。雑誌にはあまり載っていない店が満載の京都案内本だ

 「今、実は、『じじいリテラシー』という単行本を執筆中なんですよ(光文社新書、一部をPDFで先行公開中)。じじいと言っても、老人男性ではなく、世の中のおじさんたちのことですけどね。彼らをいくつかの類型に分けて、類型ごとの"転がし方"を書いているんですよ」と葉石さんは楽しそうに笑う。

 「これからは単行本の執筆を中心に、マイペースでゆったりと仕事してゆきたい」と言う一方で、『今は、テレビ出演が一番楽しい』とも話す。

 「現在は、NHKの『ワンセグ・ランチボックス』(参照リンク)でリポートする仕事をしています。テレビに出ることで、自分を客観的に見ることができるようになりましたね。一例を挙げるならば、今後社会的に成功したいならば、『デンタルIQ』の高さが必須の要件になると痛感しました。

 自分が人の目にどのように映るかということを考えた場合、歯って、第一印象を大きく左右するんですね。それを実感したこともあり、金属歯をセラミックの白い歯に変え、歯並びの一部を矯正し、ホワイトニングもしました」

 かつて「芸能人は歯が命」というキャッチフレーズのテレビCMが一世を風靡したことがあったが、ダイエットや美肌に比べると、歯の美しさなど、口腔内のエチケットやオシャレに関しての日本人の意識が相対的に低いことは否めない。しかし実際には、歯(歯肉なども含む)の美醜は、他者への印象を左右する重要なファクターになっているということだろう。前歯の詰め物がごっそり取れて無残な状態だった私は、口元をそっと手で隠した……。

和をん Made in 京都ブランド「和をん」ではぐい飲みをプロデュースしている

 はたして、10年後、20年後の葉石さんは、一体どんな日々を送っているのだろうか?

 「そうですね〜、60歳くらいには、カウンターだけの飲み屋をやっていたいです」

 きっと、とっておきの美味い酒とシンプルかつ極上の肴があり、気さくできっぷの良い女将との楽しい会話が楽しめるお店になるのではないだろうか。15〜16年も先の話ながら、何やら、今から楽しみである。

 きき酒師として、そしてエッセイストとして活躍を続ける葉石かおりさん。今後ますますのご活躍を期待したい。


嶋田淑之(しまだ ひでゆき)

 1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。

 主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」「43の図表でわかる戦略経営」「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。

 →Blog:嶋田淑之の“不変と革新”ブログ

 →BackNumber:「この人に逢いたい!」「あなたの隣のプロフェッショナル」


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