ドラッカーの真意と夢にまでうなされたプロフィットセンターの実態生き残れない経営(2/3 ページ)

» 2010年09月30日 08時59分 公開
[増岡直二郎,ITmedia]

 某大企業のA事業所で、筆者は入社以来製造現場に長く勤務した。当時A事業所のプロフィットセンターは、製造部門にあるとされた。社内の他の事業所では、設計部門がプロフィットセンターのようであったが、A事業所では3代にわたり事業所長が製造部門の出身だったせいだろう。筆者は収益の必ずしも良くない製造部門の係長、課長を勤める中で、筆舌に尽くし難いほど苦しんだ。日常業務の中ではもちろんのこと、業績会議や予算会議などあらゆる会議の席上で、効率・原価低減・仕掛かり・品質・出荷高・納期などの製造部門ノルマはもちろん、営業部門が責めを負うべき受注高や売上高や在庫高のノルマから、資材部門の購入高や原価低減ノルマ、設計部門の新製品開発の進捗状況や原価低減や標準化の目標値、そしてアフターサービス問題、果ては自部門の人材採用問題に到るまでフォローアップされ、未達成の責任を徹底的に追及された。

 もちろん、それらの結果である最終収益の責任も問われた。お陰で、厳しい責任がある一方で強大な権限も与えられ、事業所内のあらゆるビジネスプロセスについて熟知することもできた。しかし、苦しいことの方が遥かに多かった。まさに、製造部門は「プロフィットセンター」だと思い込んでいた。

 その次の事業所長から設計部門出身者の就任が続き、「プロフィットセンター」は製造部門から設計部門へ移って行った。しかし、そのことが問題でもあった。なまじプロフィットセンターと称せられる設計部門は、顧客からスタートすると言われるマーケッティングも、新しい満足を生み出すためのイノベーションも不充分で、内向きの製品開発に注力しがちだった。例えば、洗濯方法が確か155通り(だったと記憶するが)もあると自画自賛し、それを宣伝広告にも使った洗濯機は、どれだけ顧客満足のことを考えて設計したのか。

 製造部門も設計部門もいずれも、ドラッカー流に言えばプロフィットを生み出していなかったのだから、まさに単なる「コストセンター」だったのだろう。

 筆者は、後年中堅企業B社で、多少なりとも営業部門にプロフィットセンターらしきものがあることを経験した。通常営業部門は、受注高でその成績を問われる。しかし、B社の営業部門は支店ごとの受注高達成度のほかに、売上高と工場の出荷高との差である付加価値の達成度も問われた。B社営業部門は、内に向かっては工場出荷価格を下げる交渉をし、一方で客に向かっては売価を上げる努力もした。しかし、これも厳密にはコストセンターの役割にすぎなかっただろう。

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