戦略を学ぶ目的は「マネのできない理由」を見つけること(2/3 ページ)

» 2010年12月22日 08時53分 公開
[大西高弘,ITmedia]

静止画ではなく動画で捉えるストーリー

 なぜ戦略を因果論理で構成されたストーリーとして捉える必要があるのだろう。

 楠木氏はストーリーではないものを示して説明を始める。お題は「007 ロシアより愛をこめて」。懐かしい映画を数枚のスライドを使って紙芝居のように説明する。

 「007にミッションが下り(次のスライドへ)巨大な悪の存在が判明する。(次のスライドへ)すったもんだの戦いの中、(次のスライドへ)敵方の美人スパイと恋愛関係になるものの、(次のスライドへ)どんでん返しの末、敵をやっつけ、(次のスライドへ)めでたしめでたし…」。ここで場内が笑いに包まれる。こんな説明をされたらどんな名画も見る気がしなくなる。

 「映画と同様、静止画でビジネスを説明しても、何が面白いのかさっぱり分からない。わたしが言いたいのは、ビジネスを動画で捉え、動画の中で説明していきましょうということです。動画で捉えればこそ、ストーリーが動き出します」

 われわれは、さまざまな企業の成功事例を学ぼうとする。ベストプラクティスをまねようともする。そうしたとき、静止画で考えるか、動画で考えるかどちらかと言えば、当然動画で学ぼうとするだろう。自然とストーリーを求めているわけだ。

常識外れの一手が他社の追随を退ける

 では、どんなビジネスストーリーがあるのか。楠木氏は製品の標準化によって長年高水準の経常利益率を維持しつづけているマブチモーターなどの例を挙げ解説した。同社は、顧客の注文に合わせて製品を作っていたため、季節によって作業の繁閑に大きな差ができてしまい、期間作業員を雇うことで固定費を調整していた。しかし、それでは製造ノウハウの蓄積や現場の能力を継続的に向上させることができない。同社は注文に応じたモーターを作るのではなく、用途に合わせた標準的なモーターを大量生産し、その製品が受け入れられることで、さらにコストダウンを実現することができるようになった。

もちろん、マブチモーターの成功には、そこに至るまでの複雑な試行錯誤がある。さまざまなアクション、つまり打ち手が連携して流れ、利益を生み出すというゴールにつながっている。

 実際のマブチモーターのストーリーはもっと長い。そしてそれを聞いていると率直に「なるほどなぁ」と感心する。確かに、これはこれですばらしいストーリーだ。しかしわれわれはそこでとどまってはいられない。マブチモーターの成功の要点を学んでビジネスに生かしたい。製品の標準化に取り組むのか、生産現場の作業の平準化を目指すのか…。

そこで当たり前のことに気付く。成功した企業の戦略をストーリーとして捉えるのはいいが、現実には簡単に真似できるものではない。同業他社がある戦略で成長スピードを早めたとしても、それをすぐにまねても同様の効果があるとは限らない。

 経営者も幹部も、皆このことを肌感覚で知っている。けもの道を走っている側からすれば、ストーリーを学んで、なるほどと合点がいったとしても、自社の商売に役立たなければ、ただのお話にすぎない。

 しかし、けもの道から外れたところでじっとストーリーを見つめている楠木氏は違う。マネができないのは、ストーリーの中に隠されたエッセンスがあるからなのだと考える。楠木氏によれば、成功企業のストーリーは最初から完成形で存在していたのではないと言う。ストーリーのディテールを調べていくと、どの企業も現実の問題に対処をしながらさまざまな手を打っていき、形を変えながらストーリーが完成されていく。

 「その中で、成功した企業は同業他社がぜったいにやらない常識外れの一手を出していることが多い。そこが見えなければ、ストーリーが見えたとは言えないだろう」と楠木氏は話す。

 例えばマブチモーターの常識ははずれの一手、それは、玩具メーカーなどの注文に応じて製品を作るのが常識だったにもかかわらず、製品を絞りこみ、大量生産をしたことです。そんなことは当時の競合メーカーはこれっぽっちも考えなかったし、マブチモーターの戦略は「暴挙」としか映らないものだった。

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