ドラッカーそしてマネジメントが求められた理由「もしドラ」作者が語る(4/4 ページ)

» 2010年12月27日 08時00分 公開
[大西高弘,ITmedia]
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人を幸福にするマネジメントを求めよ

 1940年代に入っても、米国はなかなか不況から抜け出すことはできなかった。そんな中、ドラッカーの心を大きく揺さぶるエピソードが生まれた。GMの副社長だったニコラス・ドレイシュタッドは軍から発注されていた戦闘機の生産について、1人その発注を受けるべきだと主張した。戦争で労働力が不足しており、ほかの重役たちはとても納期に間に合わせることはできないと考えていたのだ。

 安価な働き手はいる。それは貧しい黒人女性たちだ。ドレイシュタッドは彼女たちに戦闘機作りを教え込むのではなく、ラインに各工程の作業を写した写真を貼り、文字が読めない彼女たちに作業内容を理解させた。そして熟練工でなくても扱える道具を作り、組織化しリーダーを任命し、作業の責任を明確にした。そして約束の納期通りに製品を納めることができた。

 「ドラッカーは、ドレイシュタッドの手腕に感動しました。これぞマネジメントの神髄、というべき成果でした。しかしドラッカーがそれ以上に感動したのはマネジメントは人を幸福にするということでした。戦闘機生産に参加した黒人女性たちは、無事納品できたことを知り、涙を流して喜んだのです。彼女たちは自分の目標に対して責任を持ち、自己管理をして仕事を全うする労働者の顔になっていたのです」

 失業する、職を失う、ということはその人の誇りを失わせることだ。社会的な弱者だった彼女たちは、お世辞にも有能な工員ではなかった。しかしマネジメントは成果を上げるだけでなく、人の心に大切な何かを取り戻すことも実現させている。

 「今、日本はとても厳しい局面に立たされている。しかし、この苦境はこれからアジアの多くの国が将来直面する問題なのではないか。産業の空洞化、少子高齢化、就職難・失業問題などすべてそうでしょう。ドラッカーさんは『変化にはあらがうな』と言っている。さまざまな変化に対応してくことで、日本はアジアの国々の手本になることができるようになるはずだと、わたしは考えています」

 そして、岩崎氏がもう1つ言いたかったことは、ドラッカーが感動したというGMのドレイシュタッド副社長のエピソードに隠されているような気がした。それは変化に対応するマネジメントは、同時にそこにかかわる人たちを幸福にするものでなくてはならないということだ。

 「もしドラ」の中で主人公を含めた登場人物たちは、マネジメントを行っていくうちに人間的な成長を遂げている。そのことが個々の成果よりも強く描かれていることに気付く読者は必ずいるだろう。教則本や参考書としてではなく小説としてこの本が書かれた理由もそのあたりにあるのではないだろうか。

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