イズミルでトルコ人気質を考えるエーゲ海から風のたより(1/2 ページ)

天然資源、食糧など供給能力の高いトルコ。距離を超えてパートナーシップを築くためには深い理解が必要。

» 2011年01月20日 16時00分 公開
[永井 裕久,ITmedia]

 イズミルは、気候的に温暖で、豊富な食料資源にも恵まれたエーゲ海沿岸部に位置している。そのためか、人々は開放的であまり細かいことにこだわらない性質がある。一方で、自己主張は強く、誇りが高い。今回は、日ごろ、勤務先の大学で感じることを中心に、イズミルでのトルコ人気質と行動様式について考えてみたい。

熱い人たち

 イズミルの人々の気質を一言で表現するとすれば、(あえてステレオタイプを恐れずに言えば)「熱い人たち」である。とにかく喜怒哀楽がはっきりしている。何かにつけ、感情表現が強いように思われる。嬉しいことがあれば満面の笑みを浮かべて全身で喜びを表現するし、意にそぐわないことがあれば、はっきりと反対意見を主張する。教室のディスカッションでも自己主張は引かない。日本人のように「落としどころ」を探そうとはしない。議論が白熱することもあるが、とにかく自己主張は通すという姿勢を貫く。こうなると、日本人の感覚からすると、収拾がつかなくなるのではと心配する。

「地元サッカーチーム創立85周年を祝うイベント」(写真撮影 Mehmet DULGER)

 このような時に、議論をいかに収束させようかと考えていると、必ずといっていいほど、第三者が割って入り、一見仲裁するような発言が出てくる。ちなみに、こうした光景は日常生活でもよく見掛ける。例えば、狭い路地で車が双方向から入ってきて立ち往生することがよくあり、両者にらみ合って、互いに一歩も引かない事態が生じる。

 そのような時に、どこからともなく善意の第三者が現れ、交通整理をしている光景をよく目にする。同じ状況は、教室でも起こる。両者の意見を認めながらも、自分の意見を主張する発言が飛び出すのである。これは、ディスカッションを重視するビジネススクールの教育としては、大変好ましい状況ではある。とにかく、自分の意見を持ち、自己主張する姿勢自体は評価に値する。

 しかし、これが成績に関係してくると、当然、矛先は教員に向けられる。1点でも得点を上げるため、あらゆる理由をつけ、ジェスチャーを交えて(ちなみに、大胆な手振り身振りもかれらの特徴である)説得を試みる。これにひるんでいたのでは教員は務まらない。主張は個人的な理由や拡大解釈に関することが多いので、他の学生との公平性や試験問題の意図を明確に説明することで対処しなければならない。それでも食い下がる学生もいるが、大抵は筋道をつけてきちんと説明すれば渋々ながら引きさがる。

 ところが、本当に印象的なのはこの後である。あれほど激しく自己主張していた学生の多くが、教室外ですれ違うとうそのように笑みを浮かべて挨拶をしてくる。少なくとも、1つのやり取りが完了したら、次に気持ちを切り替える思い切りの良さはあっぱれである。彼らの発想や行動様式を通して、自己主張の姿勢と引き際の大切さを学んだような気がした。

誇り高き人々

 大学生活で感じるもう1つのことは誇りの高さである。研究室では、賞状や受賞写真が所狭しと並べ飾られているのをよく目にする、大学主催の国際学会でも発表セッションごとに発表証書を手渡す授賞式が行われる。もちろん、大学という領域での話ではあるが、往々にして、人々の自尊心は非常に高い。

 これはある意味、相手を尊重することにもつながっている。自分が誇りとしていることは堂々と自己表現し、相手の誇りとしていることを踏みにじるようなことはしない。相互の個を尊重していることになる。反対に、自分と相手を比較し、同じ評価尺度で自分の優位性を誇示すれば(あるいは、そのように受け取られれば)、相手の自尊心はひどく傷つけられ、感情の高まりは沸点に達することは間違いない。

 トルコは、世俗主義が憲法に定められた政教分離を国是とするが、国民の95%がイスラム教徒のれっきとしたイスラム国である。戒律の厳しいイスラム他国と比べると、イズミルの生活習慣や風習は、非常にリベラルに感じられる。そのイズミルでも個人の誇りの背景には、イスラムの人たちが本来もっている隣人への寛容さと、相手と自分を尊重するという発想があるのだろう。

「イズミル経済大学キャンパス」(写真撮影 Mehmet DULGER)
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