高級産業は、オンラインビジネスの中のほかのセグメントと比べ、かなり後れを取っています。高級品マーケターの多くははじめ、インターネットを大量市場の格安通信手段であると見なしていました。ウェブは何年も前から一般的に使用されてきたにもかかわらず、高級品マーケターは長い間、注目する価値はないと考えていました。ある高級ブランド会社の従業員は次のように主張しています。
「われわれのCEOはインターネットが好きではなく、コンピュータも使いません。インターネットなどわれわれには必要ないのです。インターネットは高級品ではありません」
なぜ高級品の売り手はこれほど露骨にそして頑固に、急成長を遂げている新しいテクノロジーが提供する数多くのチャンスに関心を持たないのでしょう?
高級品部門は、独特の産業です。極めて質の高いアイテムを、少人数の限定されたお金持ちのために作ります。そして、高級な時計やハンドバッグ、家具や香水あるいは宝石などを販売する人間は、完璧を求め、そのような贅沢品を買う余裕のある、忠実で裕福な顧客に頼っています。しかし、アクセスしやすいウェブは、そのような伝統的な社会および経済成層を壊すものなのです。
インターネットは不特定多数の人が集う空間です。高級ブランド会社は、その不特定多数の中から顧客を増やす努力をする必要はありませんでした。高級品には常に固定顧客がいて、何か働きかけるということをしなくても確実に売り上げることが出来たからだと思われます。
デジタル革命は社会のあらゆる要素に対し影響を与えました。e-コマースによって、物を売買する方法が変わりました。高級志向の顧客も、多くは今やオンライン上で活動し、そのような変化の影響を受けています。ソーシャルウェブの誕生により市民記者であるブロガーと人気のソーシャルネットワークが主役となり、巨大な商業の力は消費者の手に握られるようになりました。
ブランドのマーケターはもはや、トップダウン方式でメッセージを広めることで市場をコントロールする力を維持することはできません。そのコントロールする力は消費者が引き継ぎ、人々がオンライン上に集まり、完全に、そして独立して影響力のある人の意見を交換するようになり、「口コミ」がトップダウン形式のコミュニケーションに取って代わるようになりました。
高級品を好む顧客はインターネットを利用しないという定説が崩れつつあるほど、現代のインターネット社会は、生活の隅々にまで浸透しています。インターネット上に溢れている多くの製品と同様、高級品も高級ブランド会社が抱えている固定顧客以外が購入する可能性が強まったのです。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授