ビジネスイノベーションの次世代モデルは技術王道と事業覇道のせめぎ合い――東大の妹尾氏NTTDATA Innovation Conference 2011レポート(1/4 ページ)

NTTデータは、都内のホテルで「NTTDATA Innovation Conference 2011」を開催した。カンファレンスのテーマは「変革を実現するためのヒントや具体的な解決策を提供する」というもの。

» 2011年02月15日 12時35分 公開
[宍戸周夫,ITmedia]

 NTTデータは1月28日、都内のホテルで「NTTDATA Innovation Conference 2011」を開催した。カンファレンスのテーマは「変革を実現するためのヒントや具体的な解決策を提供する」というもの。最初に東京大学特任教授やNPO法人産学連携推進機構理事長などを務める妹尾堅一郎氏が登壇し、「ビジネスイノベーションの次世代モデル――技術王道と事業覇道のせめぎ合い」とのタイトルで基調講演を行った。

プロテクノロジーからプロイノベーションの時代へ

東京大学特任教授やNPO法人産学連携推進機構理事長などを務める妹尾堅一郎氏

 「本日はまず、企業の競争力モデルが変容しており、従来のモデルではうまく行かなくなっているという話をします」と妹尾氏は切り出した。

 「これまでは優れた技術を開発し、それを製品に実装し、さらに根性ある営業マンが世界に売りさばけばうまく行くというビジネスモデルが確かにありました。しかし、そのやり方はもう世界で通用しません。プロイノベーション(イノベーションの促進)の時代に入っているのです。つまり、技術だけでなく、その技術を“生かす知”が決め手となっているのです」

 今まではプロテクノロジー(テクノロジーの促進)の時代だった。企業が勝ち残るためには、優れた技術を保有することが何より重要だと誰もが思っていた。優れた技術開発で事業や産業が勝てる時代だった。そのため、1980年代までは特許を取れば何とかなる(プロパテント)と考えられていた。

 「しかし今は、それでは何とかなりません!」と妹尾氏は語気を強めて断言した。

 実際、現在の日本企業の多くは、技術では勝っているのに事業では負けているという状況に陥っている。その証拠に、欧米の勝ち組企業の製品を見ると、その基盤に日本企業の製品が部品として使われているケースが多い。日本企業は単なる部品供給メーカーに陥っている。つまり日本企業の多くは、技術力では勝っていても、実際の事業では負けている。

 「それなのに、今でも多くの会社は特許の出願件数を競ったりしているのです。もはやそれは、時代遅れといわざるを得ません。今、ビジネスモデルの変容と多様化が起きています。そこで、ビジネスモデルを支える製品、サービスのアーキテクチャ、さらに知財、標準、契約をどのようにマネジメントするかが重要になっています。技術だけではなく、それを生かす知がなければどうしようもない時代となっているのです」

 ここで妹尾氏は会場の聴衆に向け、ひとつの問い掛けを行った。「VHSとβはどちらが勝ったのか」というものである。

 1970年代から80年代にかけて勃発したこの家庭用ビデオ規格の標準化争いは、まさに家電業界を二分するものとなった。

 妹尾氏は、自ら教鞭を執る東大イノベーションマネジメントスクールや一橋大学院MBAコースなどで学生相手に同じ質問をしているが、そこでは「99.99%はVHSが勝ったという答えが返ってくる」そうだ。現状を見ると、その答えは間違いないはずだが「本当ですか」というのが妹尾氏の次の問い掛けである。

 「すべては、この本当かこの問い掛けから始まるのです。VHSが勝った理由を聞くと、ほとんどの人がデファクトになったからだと答えます。しかしそうではなく、なぜデファクトになったのかを考えなくてはなりません。ディファクトになったから勝ったのではなく、勝ったからディファクトになったわけです。それが本当なのかという、その先の展開を考えることがないのです」

 そして、この30数年前の規格を巡る戦いに、製品アーキテクチャや知財、標準、契約、コンテンツなどの要素がすべて詰まっているというのが妹尾氏の指摘だ。技術優位だけでは勝てない。それ以外の要素を考えなくてはならないということである。

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