「イノベーティブ経営の実践に向け、人のつながりを把握せよ」――東京工業大学、飯島教授ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(2/2 ページ)

» 2011年03月25日 07時00分 公開
[岡崎勝己,ITmedia]
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業務全体を簡潔に表しビジネスの本質を掴む

 BPM手法として広く知られるBPMN(Business Process Modeling Notation)は仕事と仕事とのつながりを重視する。ただし、その場合には活動の表し方が細かくなるために、全体像が把握しにくい面があった。対して、DEMOは意思決定を伴う行為のみを記述するため、全体像を場合によってはBPMNなど既存手法の100分の1以下の情報量で簡潔に表すことができ、ビジネスの本質が見えやすくなる。

 飯島氏によると、DEMOは(1)最も抽象度が高く、トランザクションの種類のみを記述することでプロセスを分子レベルで表す「CM(Construction Model)」。(2)意思決定も含め、プロセスを原子レベルで表現する「PM(Process Model)」、(3)プロセス内のオブジェクトと情報を表現するSM(State Model)、(4)プロセス内のビジネスルールを記述する「AM(Action Model)」の4つのモデルから構成される。

 その有用性はすでに事例によっても確認されている。その1つが1990年代のリエンジニアリングによって変更された業務を把握するために、DEMOが適用されたフォード自動車のケースである。

 フォード自動車はリエンジニアリングを通じて、調達部品の買掛金支払い業務を、注文・納品・請求の3票を付き合わせる伝統的な会計処理から、ペーパレスのコンピュータ処理に改めた。具体的には、部品発注時に当該部品の仕様を注文データベースに入力。納品時に検品担当者が納品仕様とデータベース上の注文仕様が一致していることを確認したことをシステムに入力すれば、自動的に支払小切手が発行される。

 このリエンジニアリングによって、フォード自動車は買掛金支払い部門の従業員を4分の1にまで削減できた。このリエンジニアリング前後のビジネスプロセスをDEMOで表現したところ、モデルがまったく変わっていなかったことが明らかになったという。

DEMOを利用しイノベーティブな経営を

 2004年の経営統合によって共同経営を開始したエアフランスとKLMは、2008年時点で商用部分は統合していたが、運用部分はまだ独立して行っており、さまざまな問題をかかえていた。その問題を解決するためにDEMOを採用。6週間にわたる調査を実施し49のトランザクションと46のアクター、203の情報リンクを持つDEMOの構成モデルを作成したところ、全く異なると思われていた両社のビジネスで、唯一違っていたのが、「倉庫での積荷」処理における、両社の仕事の進め方であった。

 「KLMでは積荷に合わせてスタッフ数の調整を行っていたが、エアフランスではスタッフ数が固定されており追加の要求がない限りは、既定のスタッフで行っていた。そのほかの業務が本質的には同じであることが明らかになったことから、その後のシステム統合の問題点の明確化が容易になった。このようにビジネスにおける本質をDEMOモデルから見出すことにより、システム統合を成功に導くことができる。」(飯島氏)

 これまで述べてきたように、ビジネスプロセスの向上が業績向上につながることに疑念を挟む余地はあるまい。その実現に向けDEMOを利用した企業活動の再設計を通じて「イノベーティブな経営も実現できる」(飯島氏)。競争優位を確立するために、ビジネスプロセスに関心を示す企業は今後、ますます増えていきそうだ。

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