SEのコミュニケーション能力向上がITを「武器」に変える〜その3エグゼクティブのための人財育成塾(2/3 ページ)

» 2011年04月07日 07時00分 公開
[井上浩二(シンスター),ITmedia]

若手プログラマーの指導

 A君は、入社3年目のプログラマーである。情報工学を大学で専攻していた事もあり、プログラミングには大変自信を持っている。ITに関する知識は、社内の同期の間でも定評がある。そのため、少々難しいプログラムでも短時間でコーディングできるのだが、ケアレスミスが多いのが欠点である。現在従事しているプロジェクトでも、上司であるSEのBさんから注意するように時折指導を受けている。

 要件定義フェーズの終盤で、ユーザーからある機能のプロトタイプを見せて欲しいとの要望が出た。Bさんは、A君に依頼しプロトタイプを作成してユーザーに見せたところ、重要な部分ではなかったが細かな部分で要件定義の内容と違っていると数多くの指摘を受けた。その結果を受け、BさんとA 君はPMである課長からユーザーの信頼を失うと指摘され、特にA君のケアレスミスに関しては仕事の基本ができていないと厳しく叱責された。そこで、BさんはA君にフォローの指導をすることにした。

 B:「A君、いつもケアレスミスには気をつけるように言っているよね。君は優秀なのだから、ちゃんとチェックさえしてくれれば良いアウトプットを出せると思うのだけど。」

 A:「はぁ、自分なりにはやっているつもりなのですが。」

 B:「自分なりでは駄目なのだよ。今回は、どんなチェックをしたの?」

 A:「作ったプロトタイプに対して、要件定義書に書いてある事が実装されているかチェックしたつもりなのですが。」

 B:「その"つもり"が間違いの元だと思うよ。君は自分が"できる"と思っているから、正しい手順を踏まずに成果物を作ってしまうのだよ。プロトタイプを作る前に、要件定義書で重要な個所、細かいけどユーザーが気にする個所を整理して仕様書を書いた?」

 A:「いいえ。」

 B:「そうでしょ。何かプログラムを作るのであれば、たとえプロトタイプであっても仕様書を起こすように習ったでしょ?」

 A:「はい。」

 B:「その上で、仕様書にプロトタイプ作成後のチェックポイントを書き、それをチェックリストにして自分のプロトタイプをテストする。テスト結果に関しても、きちんとドキュメントに残さないと駄目だよ。」

 A:「……」

 B:「いいかい、スピード競争をしているわけではないのだから、今後は必要なドキュメントをしっかり書いて、正しくチェックをしてね。君は優秀なのだから、そうすれば必ず品質の高い成果物を出せるようになるよ。」

 A:「はい、分かりました。」

 さて、A君はこの後Bさんの指導に従い、高いモチベーションを持って仕事に臨み、Bさんの期待通りの高い品質の成果物を出すようになる事が出来るでしょうか?

意識は変わるのか

 このケースでは、そもそもBさんの仕事依頼時の指示、そしてユーザーとの検討会前のレビューにも問題があるが、今回はBさんのA君に対する指導に焦点を絞って解説します。今回のBさんの指導の結果、もしかしたらA君は自分の仕事の仕方を反省し、Bさんの指導に従ってしっかりとした仕事をするようになるかもしれません。しかし、そうならないリスクも高いと思います。Bさんの指導は、A君に「今後チェックリストを作って仕事をすることでケアレスミスをなくして欲しい」というメッセージを論理的に伝えています。教科書的ではありますが、

 ・仕様書を書く

 ・仕様書にチェックポイントを記述する

 ・ドキュメントに従い、成果物をチェックする

という事を、「君は優秀なのだから」と相手を立てながら話しています。

 しかしながら、A君のこの時の感情や考えを全く聞かずに話を進めています。プログラミングに自信があり、同期からも一目置かれているA君は、叱責された悔しさと言う感情の方が論理的な思考よりも勝っているかもしれません。そうだとすれば、次も同じように仕事をし、今回よりも短時間で仕上げてやろうと内心思っているかもしれません。あるいは、課長からの直接の叱責がこたえてモチベーションがかなり低下し、何かを考える気が失せているかもしれません。そのような状況であれば、その感情に配慮してモチベーションを高める心理的サポートを加えて指導しなければ、本人には何も残らないかもしれません。大事な事は、ユーザーの前で失敗を犯し、課長に叱責されたA君がどのような状況にあるかも把握した上で、状況に応じた指導をする事です。図2のPS例を参照して下さい。

図2

 このPSで示すように、相手の納得感を高めるためには論理的に伝えるべき事(今回の場合は「ケアレスミスをなくす手法」)に、「本人にとっての合理性」と「感情面への配慮」を組み込んだPSを考える必要があるのです。

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