「子供が親の思う通りに育つとは限らない。会社も同じ。今後を作り上げるのはスタッフと顧客」――ライフネット生命保険株式会社 出口治明社長トークライブ“経営者の条件”(1/3 ページ)

外交員を持たないネット生保として2008年に開業、スタートした、戦後初の独立系生保ベンチャー、ライフネット生命保険株式会社。同社を立ち上げ、経営するのは還暦の社長、出口治明氏だ。長年の大手生保勤務経験を通じ、独自の歴史観で培ってきた考えを、「宝くじに当たったような」機会から現実のものにしたという。

» 2011年05月20日 07時00分 公開
[岡田靖,ITmedia]

 この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。


 4月26日に開催されたトークライブ「経営者の条件」(主催:経営者JP、協力:アイティメディア)第9回のゲストとして招かれたのは、ライフネット生命保険株式会社 代表取締役社長の出口治明氏。

 2008年に営業を開始した、戦後初となる独立系生命保険会社、それがライフネット生命保険株式会社だ。社長の出口氏は1948年生まれ、つまり還暦のベンチャー社長ということになる。トークライブでの話題は、この起業の経緯から始まった。

「宝くじに当たったような」チャンスを得て起業

ライフネット生命保険株式会社の出口治明社長

 新卒で入社して以来、日本生命保険相互会社に勤務し続けた氏が起業するきっかけは、不意に訪れた。投資会社、あすかアセットマネジメントリミテッドの創設者でCEOの谷家衛氏に出会ったときのことだった。

 当時、出口氏は日生の子会社で働いていて「暇があった」という。そこで、「生保業界について説明をしてほしい」との友人の頼みを気軽に引き受けた。会って話をしてみると、しばらく出口氏の説明を聞いていた谷家氏は、「これほど生保に詳しい人は初めてだ。一緒に生保会社を始めよう」と切り出した。この申し出に出口氏も即答した「いいですよ、やりましょう」。

 出口氏は、かねてから生保業界の現状を憂慮していた。「日本の生保業界は誤った道を歩んでいる。保険業法が変わったのに、旧態依然とした店舗網や外交員の数を競う力の勝負を続けており、ただ売るだけで、商品やサービスの自由競争が働いていない。まさに野口悠紀雄氏の言う『1940年体制』そのもの」という考えから、その業界構造を改めるためのアイデアを温めており、2004年に著書「生命保険入門」(岩波書店)を世に出すなどしていた。こうしたアイデアを実現に移す機会が与えられたのである。

 2人は早速、その場で具体的な相談を始めた。「私は明日から何をすれば?」と谷家氏が問えば、出口氏は「パートナーを紹介してほしい」と返す。谷家氏は、即座に岩瀬大輔氏の名を挙げた。現在のライフネット代表取締役副社長だ。こうして、「わずか30分ほどの間に」会社の枠組みが決まっていった。

 この出会いを、出口氏は「宝くじに当たったようなもの」と語る。「ゼロから生保会社を立ち上げる機会をもらったからには、徹底的に良い会社を作らなければ、こうしたチャンスに当たらなかった人に申し訳ない」(出口氏)

「生命保険を原点に戻す」ことを目指した生保会社

 こうした経緯でスタートしたライフネットの事業は、当然ながら生命保険に対する出口氏の考えを具現化したものとなっている。同社サイトにはマニフェストが掲げられており、「生命保険を原点に戻す」「わかりやすく」「安く」「手軽で便利に」といった言葉が並ぶ。

 具体的にみてみよう。ライフネットの保険商品は極めてシンプルで「かぞくへの保険」「じぶんへの保険」「働く人への保険」の3種類しかなく、特約も全くない。それぞれの約款はサイト上に公開されており、誰でも確認できる。手術についての定義も、他の生保の多くが約款で生保独自の基準を設けているのに対し、ライフネットでは国の医療点数表に準拠するものとしている。その結果、手術給付金が払われるかどうかは、診療明細を見れば一目瞭然だ。

 このことは、会社側も審査に余計な手間がかからないという副次的なメリットがあり、近年でも生保各社の保険金不払い問題が発生したが、その対策としても有効だ。また、サイトでは単なる商品の説明にとどまらず、保険料の原価(純保険料)と会社の運営経費(付加保険料)を全面開示するなど徹底した情報開示を行っているほか、生命保険について学ぶこともできるようにするなど、「わかりやすく」する工夫を凝らした。

 さらに、「安く」するために会社の運営経費(付加保険料)を絞り込んでいる。目指したのは、「保険料を他社の半額にすること」。近年、保険の主要顧客であるはずの若年層の収入は下落傾向にあり、より契約しやすいよう保険料を抑えることが必要だという考えが出口氏にあった。そこで営業はインターネット専門とし、保険外交員を置かないことで人件費を抑えている。商品構成がシンプルなことや、約款をインターネットで公開していることなども、紙を減らし事務経費を抑えることにつながる。この安さに加え、契約を携帯電話からでも行えるようにするなどの取り組みが「手軽で便利に」利用するための工夫となっている。

 「レガシーな大手生保は、さしずめ巨大な労務管理会社。全国に25万人という大セールス組織を抱え、それを維持することが競争力の源泉だと考えているようだが、その人件費が手数料を押し上げている。しかし、仮に私が日生の社長だったとしても、ライフネットのような事業は作れなかっただろう。そこはゼロから立ち上げた強みといえる」(出口氏)

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