企業人は倫理に違反しやすい宿命にある! “マネジャー版 ヒポクラテスの誓い”のすすめ生き残れない経営(1/3 ページ)

企業経営者はしょせんプロフェッショナルではない。だから企業では不正行為が抑制されることがなく、反倫理的事件の発生が少なくない。なぜ企業人は、道徳心を失って反倫理的行為を犯すことになるのか。

» 2011年06月27日 07時00分 公開
[増岡直二郎(nao IT研究所),ITmedia]

 企業経営者はしょせんプロフェッショナルではない。だから企業では不正行為が抑制されることがなく、反倫理的事件の発生が少なくない。この際「マネジャー版 ヒポクラテスの誓い」を定義し、経営者の規範とすべきだ……という、非常に面白い主張に出会った。その主張の概要を紹介し、企業経営の実態を抉りながら、企業倫理について考えてみたい。

 マスコミをにぎわす企業の大きな反倫理的行為は、決して少なくない。その大きな事件の芽とも言える身近な事例から、その背景を探ってみよう。

 大手機械メーカーA社のB製造課長は、日頃から「赤字を解消するために、殺人以外のことは何でもやれ」と、部下に気合を入れていた。気合を入れられた部下は、いろいろ策を試みたが効果がなかなか出なかった。目標未達成の製品出荷高が長く続いたある月の締切日、とうとうその月が未達成を許される限界だと見た課員は、翌月に相当する翌日出荷見込み分を当月で出荷完成の手続きをした。

 空の出荷完成なので、A社では「カラ完」と呼ばれていた。粉飾だ。 それが麻薬に溺れるように止めることができずに毎月続き、ついに1年後に月の半分の出荷高がカラ完になっていた。当然お客から、出荷手続きがあったのに2週間経っても製品が届かないというクレーが殺到した。経理も知るところとなったが、カラ完の余りの多さに手の打ちようがなかった。

 2年近く経って月のうち約4分の3がカラ完で占めるという想像を超える事態となって、トップの知るところとなり、ある月に大赤字を出して一挙に修正処理をした。しかし、B課長が処罰されなかったのは、いまだに不思議だ。

 この例から、いくつかの教訓を得る。カラ完など、確かに殺人に比べると取るに足らないことだが、B課長が責任を問われないのも問題だ。即ち、上司の考え方が容易に部下へ影響すること、状況が厳しくなると倫理基準を下げようとする誘惑に駆られること、そして問題を問題としない企業体質などを、問題として認識しなければならない。

 中堅の電子機器メーカーC社の工場資材部D係長は、外注メーカーからの購入部材の価格を原価低減で下げたとき、工場内での実施を数カ月後へずらして、その間の差額をその取引先に預け置くことにした。預けた金を、資材部が必要とする机やロッカーなど高額事務器や運搬箱などの購入に当てた。

 Dは、事務室内で時々大声を上げて叫んだ。「外注E社に何十万預けてあるぞ」、「F外注メーカーに何百万預けてある」、「こうして大声で言っておけば、個人の懐に入れられないから大丈夫だ」。その大声を、部課長も耳にしていたはずだ。

 しかし、資材の幹部候補生の一担当者が、あるとき地元の料理屋で仲間と私的会合を持ち、最後に会計をしようとしたとき、女将に耳打ちされて驚愕した。「今日の分は、どこの外注につけておきますか? 」このことをDは承知なのか、他の誰かが同じように女将から声をかけられて喜んで応じてはいまいか、……その担当者は困惑した。

 社員は、リーダーや同僚の言動をよく見ている。リーダーが反倫理的行為をしたり、誰かが要領よく振舞ったりするのを見ると、まねをしてもいいと思う。C社の場合も、リーダーの常軌を逸した言動は部下に誤解を与えるし、都合のよい方へ拡大解釈もされかねない。

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