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» 2011年08月31日 07時00分 UPDATE

ビジネスイノベーターの群像:グローバル時代に勝ち残る理想のホテルを作りたい――横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズを「変革」する鈴木朗之社長 (1/2)

日本のホテルは、きめ細かなサービスで世界的にも評価が高い一方、グローバルレベルのコスト競争力を持ったホテルがなかなか育っていない。そんな中、他業界及びホテル業界でのグローバルな経験を生かし、横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズで経営改革を進めているのが鈴木朗之社長だ。グローバル競争が激化するホテル業界で、求められるイノベーションとは何か、鈴木氏に聞いた。

[聞き手:浅井英二、文:大井明子,ITmedia]

最後の仕事に選んだ、「理想のホテルづくり」

suzuki290.jpg 横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズの鈴木朗之社長

 横浜駅前に位置する客室398室を持つ大型ホテル、横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズの代表取締役社長で総支配人を務める鈴木朗之氏は、生え抜きが多く、どちらかというと保守的な日本のホテル業界においては異色の存在だ。外資系の航空会社やホテルグループでの経験を生かし、コスト意識を高めて国際競争力を強化すべく同ホテルの改革を進めている。

 鈴木氏が今年掲げた経営方針は「変革元年」。横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズの経営に携わるようになった2006年以来、さまざまな改革を行ってきたが、「今や“改善”や“チェンジ”くらいでは追いつかない。大胆な“変革”に手をつける必要がある」と改めて強い危機感を持って臨んでいる。

 鈴木氏のキャリアは、1964年香港を拠点とする英国系大手航空会社、キャセイパシフィック航空でスタートした。名古屋支店中部地区営業部長、東京支店東京地区企業担当営業部長などを歴任し、1985年ホテル業界に転進。のちにマリオットホテルグループの傘下に入る外資系ホテルグループの日本開業に携わることになった。1997年以降、数々の国内ホテルとマリオットの提携交渉を進めてきた。

 そのころ東京は、「外資系ホテルブーム」ともいえる時期を迎える。2000年以降、フォーシーズンズホテル丸の内東京、グランドハイアット東京、コンラッド東京、マンダリンオリエンタル東京など、大型高級ホテルが次々に建設され、2007年には東京に世界の主要な外資系ホテルブランドが出そろうことになった。

 しかしその一方、迎え撃つ日本のホテルの多くは、一部を除いて鉄道や航空会社の戦略事業としてスタートしたところが多く、グループ全体で利益が出ていれば、ホテル単体で利益を出すこともさることながら、サービスの充実の方が重要視されていた。「そこに採算に厳しく、世界中で戦ってきた外資系ホテルチェーンが上陸してきたため、日本のホテルもいやおうなく酷な競争に巻き込まれることになった。私はちょうど外資系ホテルチェーンにいたので、その様子がよく見えた」と鈴木氏は振り返る。

 鈴木氏は、多くの日本のホテルオーナーと話をする中で、強い危機感を持ったという。「日本のホテルの良さでもあるがサービスの質は高い。しかし一部の幹部を除いて社員全体のコスト意識が低い。早く日本のホテルも競争力を付けないと外資系ホテルと戦えないと感じた」。

 そして、64歳の2006年末「引退も考えていたがその前に、グローバルで勝ち残る日本のホテルを作りたい」と考えた鈴木氏は横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズに加わった。

P&L等、情報の可視化で、コスト削減と「頑張った人に報いる」仕組みづくり

 まずは経営理念を定め、それに基づいて5年をひと区切りとする経営計画を立てた。「最初から大なたをふるっても無理があるので“変革”ではなく、“改善”をイメージして進めた」。

 最初に着手したのがP&Lの可視化。それまでは全体のP&Lは把握していたものの、部門別の詳細データまでとれていなかったため、数値から改善のためのアクションにつなげることができなかった。そこで、欧米系ホテルでは一般的に採用している「ユニフォームシステム」と呼ばれるアメリカのホテル会計基準を導入し、部門別のコストなどの数値を可視化。社員はこの数値から自部門の課題も明確になり、すみやかに改善へのアクションを取ることができるようになった。「部門別利益率などの数値をすぐに見ることができるので、間を置く事なく戦略を立てて対策を打つことができるようになった」と鈴木氏は話す。

 数値の可視化によるコストを意識したビジネスへの転換。これだけを見ると外資系企業のビジネス手法にのっとったコストカットを中心としたドライな改革なのではと思うが、鈴木氏の場合は全く違う。利益目標を達成した初年度の2007年度には、従業員に特別ボーナスを支給。可視化によって生まれた利益を従業員に還元したのだ。

 「日本の成果主義は“減点すること及びコスト削減”が主たる目的になっているように思える。しかし、本来の成果主義とは頑張った人に報いる事でモチベーションを高め、業績を上げるためのものだ」(鈴木氏)

 成果主義導入の新人事制度では、初年度は年収が大幅に上がった人がいた一方で、大幅に下がった人もいたという。ただ、その根拠となる数値はすべて開示しており、当初は多くのとまどいもあったが、ある種の納得感がある。「だからこそ、みんな信用してついてきてくれている」と鈴木氏は言う。

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