グローバル時代に勝ち残る理想のホテルを作りたい――横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズを「変革」する鈴木朗之社長ビジネスイノベーターの群像(2/2 ページ)

» 2011年08月31日 07時00分 公開
[聞き手:浅井英二、文:大井明子,ITmedia]
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リーマンショック、東日本大震災、そして世界不況……。「変革」は避けられない

 可視化された数値を基にさらにコスト構造の見直しを進めた結果、2007年度から2年続いて、経常利益は前年度に比べて倍増する。ところが2008年の秋に世界金融危機(リーマンショック)が直撃した。「当初考えていたような“改善”のペースではいけないという危機感が生まれた。さらに“体質改善”を進め、筋肉質のコスト構造を作ることを目標に定めた」と鈴木氏は振り返る。続く2009年度からは、こうした筋肉質のコスト体質を土台に攻めに転じ、売り上げを増やすことを目標に掲げた。

 ところが、リーマンショックの影響が続く中で幾ばくかの上昇気運が見えてきた今年、先の東日本大震災が起きる。売り上げは落ち込み、2010年度に掲げた90億円の売上目標は達成することができなかった。

 「震災前はまだ“変革”に着手する程ではないと考えていたが、ここまで厳しい状況になると、そうも言っていられない。いよいよ“変革”を進めないと大変なことになると危機感を抱いた」(鈴木氏)

 鈴木氏が横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズに来てから5年目となる2011年を改めて「変革元年」と位置づけたのにはこういった背景があった。

 先に導入したユニフォームシステムにより会社の厳しい状態は社員も目の当たりにしている。

 「P&Lや財務体質をここまで社員に公開している会社はないと思う。だから厳しい改革も“やるしかないんだ”という意識が共有できる」と鈴木氏は言い切る。

「変革」は、5年スパンの仕事

 危機感は強いが急激な改革に人はついてこないことはよく理解している。今掲げている“変革”についても鈴木氏は、「5年くらいのスパンで考えている」と言う。ホテルの利益構造を抜本的に変えていかなくてはならないからだ。

 一例を挙げれば、企業担当の宴会営業マンの仕事の流れを見ると、営業活動、プランの作成、ホテル内の関係部署との調整から当日のお客様のお出迎え、終了後のお見送りや終了後の事務処理など、すべてを営業マンが関る。一方米国では、それぞれの工程に応じて仕事がきっちりと分担されており、効率が良い。「一人の営業マンの生産性は何倍も違う。もちろん米国と日本のサービスの土壌は違うが、日本はともすると、提供したサービスと受け取る対価が必ずしも等価にはなっていない」と鈴木氏は考えている。

 また、経費や利益に関しても、「これまでのように、“売り上げから経費を引いた残りが利益”という考え方では利益は出ない。売り上げから、まず“あるべき利益”を確保し、残りの金額内に経費をおさえるというやり方でなければいけない」と話す。しかしながら、ホスピタリティ産業の中では、サービスレベルを落とすことなく全体に対して正しい対価を得ることができる方法を模索しなければならない。

 2011年度は、“変革”の旗印の下、ターゲット顧客の見直し、そしてその商品開発や顧客の囲い込み強化などの戦略を打ち出している。「取り組まなくてはならないことはたくさんある」と鈴木氏は言う。しかし、「すべてを一度にやると失敗する」とも考えている。今重視しているのはグローバル時代に対応できる人材の育成だ。「今年はリーダーを育てたい」と話す。

 海外にある系列ホテルでの社員研修を実施しているが、それだけでは足りない。「世界と互角に戦う“戦闘的な強さ”を持つ人材を育てるには、外資系ホテルの欧米にある本部の中枢で、2〜3年は研修しないと企業人としての真の国際化は難しい」と鈴木氏はみている。

 日本のホテルのサービスは非常に評価が高いが、今後必要なのはビジネスで戦う力だ。

「日本のホテルにはサービスのプロは多くいるが、ビジネスで利益を出せるプロが少ない。ホテルマンとしてのリーダーだけでなく、ビジネスマンとしてのリーダーを育てなければ、日本のホテルは国際競争に負けてしまう」(鈴木氏)

プロフィール 横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ 総支配人、相鉄ホテル株式会社(同ホテルを運営) 代表取締役社長 鈴木 朗之(すずき・あきら)氏

1942年生まれ。1964年キャセイパシフィック航空会社入社。東京支店東京地区企業担当営業部長などを経て、1985年に株式会社ラマダ・ジャパン(後にマリオット・インターナショナル・インクの傘下に)に開業準備委員・日本地区担当営業部長として入社。マリオット・インターナショナル・インク副社長などを経験したのち、2006年に、相鉄ホテル株式会社に副社長として入社。2009年6月から現職。


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