テレビ局の品格とスポンサー企業の品格『坂の上の雲』から学ぶビジネスの要諦(2/2 ページ)

» 2011年09月12日 08時00分 公開
[古川裕倫,ITmedia]
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どうすれば低俗番組がなくなり、ましな番組が増えるのか

 答えは、スポンサー企業がもっと考え行動することだと思う。番組の内容を考えてスポンサーになるなり(タイムCM)、スポットCMについては流す時間を交渉したり、低俗番組を避けるようにして流したりすることである。

 ある低俗番組にスポンサーがつかず、低俗番組が流れる時間帯にスポットCMを流さなければ、その低俗番組は成り立たない。ちょっとはましな番組にしないと局は食えなくなるのである。GRP志向のスポンサーがあっても、大手のまともな企業がその時間帯のスポットCMを打たなければ番組は成立しない。

スポンサー企業の品格

 スポンサー企業は、CMに対する企業内ビジョンを持つことである。つまり、社会への影響や企業イメージ広告のありかたをしっかり社内のコンセンサスにすることである。そうしている会社もあると聞くが、多くはそうでないらしい。そういうコンセンサスがなければ、広告担当の価値判断基準はGRPのみとなってしまい、企業イメージや長期戦略を求めにくい。生産部門や営業部門などはトップと意思統一ができても、テレビの広告までできているのか疑問である。

 繰り返しであるが、企業が低俗番組のタイムスポンサーにならないことや低俗番組の多い時間帯にスポットCMをしないのであれば、局は番組の内容を変えざるを得ない。先にスポンサーとしてのCMの意義を2つ述べたが、露出を増やせばよいというものではないだろう。確かに、広告の効果は計りにくい。GRPや視聴率というモノサシしかない。それに局も代理店もスポンサーもが振り回されすぎていると思うがいかがであろう。視聴率は単なるサンプリングされた昨日の数字にすぎない。

 企業が売上を増やすための方法を求めるのは分かるが、それ以外に企業イメージを中長期的戦略として高めることも当然行っている。それを考えると視聴率だけに振り回されるのはとてもおかしいことではないか。昨日の数字より今日から求める姿の明確化がもっと大切ではないか。夜中の低俗番組の前後に(スポットCM枠で)流れていればイメージダウンは免れない。

 ところが、企業のトップはほとんどテレビを見ていないし、ましてや低俗番組の前後に自社のCMが流れていることなどを知らない。深夜の低俗番組の前後に一流会社のCMが流れているのを見て、わたしは、ぐっすり寝ているだろう経営者が気の毒に思うことがよくある。一流企業のCMがどれだけ深夜帯に、またどんな番組の前後に流れているか、一度観察してみてはいかがだろうか。

 これは、広報担当者や一般社員ができる会社への貢献であり、社会への貢献でもある。企業の品格を維持するためにも。日本の品格のためにでもある。

 広報担当者はそれを企業のトップにしっかり伝える必要がある。一般の社員もそれを広報担当者やトップに伝えることである。企業の品格を維持するためにも。日本の品格のためにも。

「坂の上の雲」

 前段が長くなってしまったが、さて坂の上の雲。 

 日露戦争の勝敗を決定的に決めた日本海海戦。ロシアのバルチック艦隊を東郷平八郎率いる日本艦隊が破るのだが、東郷は常々こう部下に言い聞かせていた。

東郷はかねてから、

「開戦というものは敵に与えている被害が分からない。見方の被害ばかり分かるからいつも自分のほうが負けているような感じを受ける。敵は味方以上に辛がっているのだ」(坂の上の雲、司馬遼太郎、文春文庫)


 何千メートルも離れた位置から撃ち合うのだから、敵の被害の大きさはよく見えない。眼前の自軍の被害のほうはよく見える。

 大企業も仕事の細分化で、自分の仕事ではなくそれは広報の仕事だと思ってしまう。まるで他人事のように。自分の部署以外の仕事は見えなくなっていることが多い。そうではなくて、自分の会社の広報活動は、社員全員の仕事である。

 自分の会社が少しでもテレビにCMを出しているのであれば、もっと興味を持って、必要な意見を進言すべきである。夜中の番組やCMを見ていないだろうトップに。

 自社ばかりでなく社会のためにも、大企業に属する人は、スポンサーがテレビ番組の内容も変えることができるということを覚えておいて欲しい。

著者プロフィール

古川裕倫

株式会社多久案代表、日本駐車場開発株式会社 社外取締役

1954年生まれ。早稲田大学商学部卒業。1977年三井物産入社(エネルギー本部、情報産業本部、業務本部投資総括室)。その間、ロサンゼルス、ニューヨークで通算10年間勤務。2000年株式会社ホリプロ入社、取締役執

行役員。2007年株式会社リンクステーション副社長。「先人・先輩の教えを後世に順送りする」ことを信条とし、無料勉強会「世田谷ビジネス塾」を開催している。書著に「他社から引き抜かれる社員になれ」(ファーストプレス)、「バカ上司その傾向と対策」(集英社新書)、「女性が職場で損する理由」(扶桑社新書)、

「仕事の大切なことは『坂の上の雲』が教えてくれた」(三笠書房)、「あたりまえだけどなかなかできない

51歳からのルール」(明日香出版)、「課長のノート」(かんき出版)、他多数。古川ひろのりの公式ウエブサイト。


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