異業種同士のジョイントベンチャーで市場の活性化を――ネットや携帯の広告市場を切り開いてきた電通デジタル・ホールディングスの藤田明久氏ビジネスイノベーターの群像(2/2 ページ)

» 2011年10月04日 08時00分 公開
[聞き手:浅井英二、文:大井明子,ITmedia]
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新市場を育てるにはまず、業界の発展ありき

 cciではソフトバンクと、D2CではNTTドコモと、「親会社の発言力や信頼性を活用しながら、新しい市場を大切に育てた」と藤田氏は振り返る。新しい市場をゼロから開拓する場合は、自分の会社を発展させることは当然だが、自らが飯を食っていく業界そのものを発展させないと、自分たちの会社も結局は長続きしない。

 D2Cでは、新市場が生まれたばかりのある局面では競合他社とも協力。違法行為に関わるビジネスの広告が掲載されたりしないよう、ルール作りやチェック体制作りに業界全体で取り組んだ。PCのバナー広告やモバイルの広告が、生活者にとってクリックするのをためらうものになっては新市場も生まれないからだ。このとき、厳格な審査体制を持つ新聞広告に携わった経験が役立ったという。そして、広告は広告だと分かるように明記する、広告主名や商品名を記載する、などのルールが決められていった。

 新市場のスムーズなテイクオフのためには標準化も重要なポイント。PCのサイトや携帯電話のキャリアによって広告枠のサイズが異なると、広告主は内容やデザインは同じで複数のサイズの広告を作成しなくてはならず、手間やコストがかかるからだ。

 ここでもcciやD2Cはリーダーシップを取って、業界内の利害をまとめていく。これこそが、それぞれの業界の第1位が手を組んだジョイントベンチャーの役割だと藤田氏は考えたのだ。積極的に議論を引っ張り、広告枠のサイズ統一を実現した。

製造業のイノベーションにも、異業種とのジョイントベンチャーを

 藤田氏は、自身の経験から「日本発のイノベーションを増やす方法として、起業自体をもっと増やすことに加え、そこまで踏み出せなくても大企業の中でリソースやネームバリューを活用しながら、新しい発想を拡大させる人達が増えることこそ大切。さらに一歩進めてジョイントベンチャーにすれば、アイデアやノウハウ、機動力が加わる。実はこういった活動も立派な起業活動ではないだろうか」と主張する。日本人の持つ「起業」の定義をもっと柔軟にすることで、日本型のイノベーション発生モデルが見えてくる。

 「経済が停滞している今こそ、ジョイントベンチャーを活用したイノベーションが必要ではないか。それは特に、日本が最も得意とする分野――つまり、製造業こそ効果的だと思っている」(藤田氏)

 これからのイノベーションのカギの一つは、成熟市場をどう「再定義」するか。「アップルのiPhoneは携帯電話を再定義した。iPodはウォークマンの再定義。大切なのはテクノロジーではなく、生活者の利便性をどう再定義してより良くするか」(藤田氏)

 自動車や家電など日本を支える製造業が、自らの市場を再定義するために、ジョイントベンチャーが大きな可能性を秘めている理由として、「現在の課題や潜在ニーズが"見えちゃった"り、解決のアイデアを"思いついちゃった"ベンチャー企業が提供するサービスを、巨大製造業が既存のハードウェアに組みこむだけでも、イノベーションが生まれるはず」と藤田氏は考えている。「ゼロから新しいものを生み出しても、生活者が受容するケースは実は少ない。既製品を半歩だけ進める再定義が成功する。あとは地力に勝る日本の製造業のパワーがあれば、世界を再び席巻することも夢ではない」(藤田氏)

 藤田氏は、ベンチャー企業のアイデアや情熱に対して、大企業がリスペクトを持って手を組むことで、いくつものイノベーションが生まれると信じている。そして、その動きを生み出し、成長をサポートすることこそが、今の自分の役割だと強く思っている。

プロフィール 電通デジタル・ホールディングス 取締役専務執行役員 藤田 明久(ふじた・あきひさ)氏

1965年生まれ。1991年電通に入社。1996年、電通とソフトバンクの合弁会社「サイバー・コミュニケーションズ」設立とともに取締役就任。2000年にはNTTドコモと電通の合弁会社「ディーツーコミュニケーションズ」設立とともに代表取締役社長に就任。2010年から電通デジタル・ホールディングス取締役専務執行役員(現職)。デジタル領域に特化した「電通デジタル・ファンド」のファンドマネジャーも務めている。


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