社会のために働く、社会起業家という生き方に触れよう!会社人よ、社会人になろう!(2/3 ページ)

» 2011年10月14日 08時00分 公開
[鷹野秀征(ソーシャルウィンドウ),ITmedia]

日本における社会起業家の意味

 日本で「社会起業家」という言葉が書籍に登場したのは2000年でした。行政が行き詰まる中、NPOが民間による新たな公共の担い手として期待され、この10年でNPO法人数は10倍の4万団体になりました。しかし、現実には多くのNPOが資金集めに苦しみ、いわば零細企業の域を出ていません。その中で先駆的に社会起業家を志向してきた人たちが活躍するようになり、一般からの注目がようやく高まってきました。

 社会起業家の目指すソーシャルビジネスは、NPOの志に企業のビジネススタイルを融合させた形で、事業型NPOや社会志向の強い会社等がこれに該当します。世界的にはノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏のグラミン銀行が有名で、日本では葉っぱビジネスとして知られる徳島県上勝町の株式会社いろどり、ホームレスによる雑誌販売の有限会社ビッグイシュー日本、病気の子どもを定額でいつでも何度でも預けられる病児保育のNPO法人フローレンス、500円で血液検査が受けられるワンコイン検診のケアプロ株式会社などが挙げられます。

 いずれも強い信念と驚くべき発想力と突破力を持った起業家たちです。講演会があれば是非行って直接触れて欲しいと思います。ビジョンを持ち、無理と言われてもあきらめずにチャレンジする姿に、人間の素晴らしさと知恵を感じます。

 行政もこの動きを後押ししています。経済産業省ではソーシャルビジネス推進研究会を設置し、今年3月に事例ケースブックを発行しました。内閣府では2010年から総額70億円の地域社会雇用創造事業(社会的企業支援基金)を開始し、全国で12の事業者が研修と起業支援を行っています。このうちグラウンドワーク三島での研修に筆者も講師で出講していますが、ワークショップで各自の事業アイデアを形にしていくとき、しばしば受講者の強い想いに感動を覚えます。最後の振り返りで高齢の方が皆こう言います。「失われた20年と言われるが、この国は捨てたものじゃない」と。

 日本の社会起業家育成・支援は、2002年のNPO法人ETIC.(エティック)による社会起業塾から始まりました。2005年にはソーシャルベンチャー・パートナーズ東京(SVP東京)が資金とプロボノによる専門的社会起業家支援を開始、この中から、フローレンス、ケアプロなどが成長してきました。慶応義塾大学大学院には社会イノベータコースが設置され、2010年には冒頭で紹介した社会起業家育成専門のビジネススクール・社会起業大学が開校。そして今年、いよいよ世界63カ国で2000人以上の社会起業家を支援しているアショカ財団が日本支部を開設しました。

 企業にも社会起業家を支援する動きが始まっています。NECと花王はETIC.の社会起業塾を、UBSグループとアクセンチュアはSVP東京を、エン・ジャパンとアクセンチュアは社会起業大学の支援を開始しました。なかでもアクセンチュアは、社員が社会起業家と共に事業計画の検討や事業推進を行い、継続的に支援する取り組みを始めています。

 まだ日本ではソーシャルビジネスの事業規模は大きくなく懐疑的な見方もありますが、これからは企業でも社内社会起業家の育成が始まるでしょう。

 戦後日本の復興を担った創業者たちは日本が誇る社会起業家でした。焼け野原で貧しかった時代に社会への貢献を志し、困難を乗り越えて実践してきた先達たち。今もその創業精神を大切にしている企業は沢山あります。その社員は社会起業家マインドを受け継いでいると言えるでしょう。東日本大震災からの復興と新しい社会づくりには、この社会起業家マインドが必要とされています。

 企業から再び「社会課題の解決を目的とした」ソーシャルビジネスが次々に生まれる日はそう遠くありません。

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