今の日本に必要なリーダーは「狩猟」か「農耕」か? 佐々淳行氏ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(1/2 ページ)

初代内閣安全保障室長の佐々淳行氏は、危機対応能力は個人の性質に依存すると説明する。「狩猟民型」か「農耕民型」かの違いだ。その性質を踏まえた上で、組織はどのようにして危機に備えるべきか。

» 2011年10月24日 08時00分 公開
[岡田靖,ITmedia]

 危機的な状況に対して、リーダーはいかなる姿勢で臨むべきか。そして、どのようなリーダー像が望まれるのか。9月6日に開催された経営者向けセミナーイベント「第22回 ITmedia エグゼクティブセミナー」の基調講演において、初代内閣安全保障室長の佐々淳行氏は、危機に強いリーダーについて論じた。

政府のまずい対応

 佐々氏は、リーダーの人物像を「農耕民型」「狩猟民型」の2つのタイプに大別して説明している。佐々氏によると、「農耕民型は『平時の能吏』といったところ。日本人には農耕民型が多い。農耕民型リーダーは平時の調整が上手な人で、比較的高齢者の中から選ばれる。農耕民族には猛々しい人は不要だからだ」と述べる。

佐々淳行氏 佐々淳行氏

 農耕型の人々は会議を好む。上司や部下、競争相手といったしがらみの中で、全員の合意を取り付けるために、平時には会議や調整が欠かせないのである。その調整や合意形成を粘り強く行うには、気長に対応できる高齢者が好ましい。逆に壮年の猛々しい人物では、太平の世には問題を起こしがちなので敬遠される。平和が長年続くと、落ち着いた高齢者からリーダーを選ぶ傾向が自然に強まってくるというわけだ。

 とはいえ、あらゆるステークホルダーがかかわる大きな枠組みの中で農耕民型の調整を行うには、どうしても時間がかかってしまい意志決定が遅れてしまう。急を要する状況には不向きで、しばしば決定的な場面で決断の時期を逃してしまいがちである。例えば、太平洋戦争は、陸軍や海軍をはじめとした各セクションの意見が対立したまま結論をズルズルと先送りし、やむなく対米開戦に踏み切ることになってしまったと分析されている。誰かが決断したのではなく、むしろ誰も決断しなかったからこそ戦争以外の選択肢がなくなったといえるだろう。このような状況を、佐々氏は、「連帯無責任」と呼んでいる。

「例えば、田植えをいつやるかということを誰が決めているのかよく分からない。太平洋戦争の開戦もまた、誰がどのように決めて、どう責任を取ったのか分からない。こういった意志決定を日本はずっとやってきた。会議ばかりでは、集団的連帯無責任につながってしまう。古くからの日本の企業も同じように農耕民型で、連帯無責任体質が多い」(佐々氏)

 農耕民型では、危機的な状況に置かれたときに迅速な意志決定ができない。そして、とりわけ緊急性の高い物事に対しては全員の意志を共有する時間がなく、しばしば場当たり式の対応に陥りがちだ。一貫した対応も難しくなってしまう。特に、今回の原発事故への政府の対応について、佐々氏の指摘は手厳しい。

「東日本大震災に関して、政府は幾つもの会議を催した。原発事故は明らかに人災。原発事故の対応は国でなく地方自治体が行うものとされていたが、実際には危機対策の中で役に立ったものがなかった。だが、それについての責任を誰が取っただろうか」(佐々氏)

 この対応について、政府は法律の適用を間違えたと佐々氏は考えている。数多くの委員会を設置するのでなく、「安全保障会議設置法」を適用して安全保障会議に一元化すべきだったというのだ。この法律は治安問題や大規模災害を想定し、1986年に中曽根康弘政権下で公布された。安全保障会議を首相の命令で設置、国の責任で実施し、強い権限を集約してことに当たるべきだというわけである。

「震災に対しては、戦後最大規模となる10万人もの自衛隊が動員されたが、安全保障会議を開くこともなく、『何となく』決まった。あれほど会議好きの政府が、なぜそこだけ会議を開かずに決めたのかは疑問だ。こういったことを許していては独裁につながりかねない」(佐々氏)

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