「想定外」に企業が対応するための勘所とは 安井あらた基礎研究所所長ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(2/2 ページ)

» 2011年10月28日 08時00分 公開
[岡田靖,ITmedia]
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「同じ釜の飯を食った人たち」だけでは想定外の可能性は減らせない

 企業活動に対するリスクは多種多様だ。災害といっても、地震、津波、火山、洪水や高潮、土砂災害、さらには鳥インフルエンザなどのパンデミック、紛争や戦争、テロなど、それぞれの原因が異なれば災害の様相も大きく異なる。当然ながら企業活動に与える影響も全く違うものとなり、対策もまたそれぞれ異なる。「BCMとERM(Enterprise Risk Management:リスク管理)は、『将来の不確実性への対応』という点は同じだが、大きく違う点はリスクを具体的レベルで想定できない点だ」と安井氏は説明する。

 安井氏は、BCMにおける想定の対象として、「地震と鳥インフル」がポイントだと述べる。震災は被災地域が限定的で、ある程度の具体性を持った想定が可能、災害は瞬時に発生する。一方、パンデミックは世界規模かつ想定が難しく、流行が拡大するまでには時間的な余裕がある。企業活動にとって、さまざまな面で異なったリスクとして考えることができるのだ。それ故、この2種類の組み合わせで幅広く応用が可能となるという。

 今回の震災を受けて地震対策に取り組んでいる企業も多いだろうから、次はパンデミックへの対策を立案すればいいというわけだ。しかし、BCMにおける災害の想定には困難がつきまとう。人間の想像力には限界があり、「想定外」の可能性を減らすのは難しいのだ。

「古くからの日本企業に多い『同じ釜の飯を食った人たちの集団』だけでは想定の幅が狭くなりがち。金融業界では弁護士や会計士などを監査役に置く例が増えてきたが、思いもよらぬ指摘や質問があって経営会議が引き締まったという話をよく聞く。想定外を減らすには、経営陣の多様化が望ましい」(安井氏)

トップの意志を発信しておくべき

 さて、さまざまなリスクを想像した上で、それぞれの非常事態に陥ったときの行動をどのように想定するのか。「想像外」や「想定外」の可能性をゼロにできない以上、マニュアルでは対応しきれない場面が生じ得る。となれば、人間の柔軟性に頼らざるを得ない。その場面に居合わせた人たちが自分で考え、行動するのだ。そこで組織として一貫性のある活動を行えるようにするには、マニュアルより抽象的なレベルの行動規範が求められてくる。

 「非常時」と一口に言うのは簡単だが、平常時からの逸脱の方向性はさまざまだ。そしてしばしば、企業の存立する場である社会そのものに、さまざまなダメージを与える。こうした状況下では、人間としての基本的なポリシーを社会と企業が共有できていなければ、企業は社会に受け入れられなくなってしまう。安井氏はそのポイントを、「途中からは業種によって違ってくることもある」としつつ、重要度順で以下のように列挙した。

  • 人命救助
  • 安否確認
  • 物的被害状況の把握
  • 人的・物的被害状況に関する情報共有
  • 業務運営正常化へ向けた計画策定・実行
  • 利害関係者への説明
  • マスメディアへの情報発信

「JR福知山線脱線事故に際して、乗り合わせていた乗務員が運転司令室に連絡したところ、業務を優先するよう指示された。この運転司令室の判断は非難を浴びた。コンビニなどでは、通常業務すなわち商品の販売を停止するケースについて、具体的にマニュアル化している。人命に関わる事故がない限りできるだけ営業を続けるという扱いだ」(安井氏)

 重要なことは、こうした行動規範をトップマネジメントのレベルから発信していくことだというのだ。その例として安井氏は、セブン&アイ・ホールディングスを挙げた。同社では、「消費者に品物を届けること」という自社の業務の根本から自然な形でBCMへとつなげており、「やらされ感」なく震災直後から被災者に物資を提供するなどの行動をとることができたというのだ。

 「企業におけるBCMは、経営者の忠実義務の範囲の1つ。社会からの期待に応える意味合いを持つものだ。継続的にBCMを定着させるためには、経営陣や経営企画室など力のあるセクションがリーダーシップを握らねばならない」と安井氏は強調する。得てして事業部門は「俺たちの部署が会社を支えているのだ」と自分自身を過剰に重視してしまいがちだが、それを動かすには、経営トップの意志が働かないといけないという。

 その上で、計画策定や訓練が実際に行われ、何らかのフィードバックがあるかどうかを監査する必要がある。そうしてPDCAサイクルを回していくことがBCMを定着させる上で重要である。

「企業のBCMは、『自助』に相当するが、『共助』や『公助』の分野にもプラスとなるはずであり、自助を進めることで社会に貢献することができるのだ」(安井氏)

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