「絶望」を乗り越え、ゼロから世界に誇れる町を創る――陸前高田市・戸羽市長2012年 それぞれの「スタート」(1/3 ページ)

岩手県陸前高田市――東日本大震災と津波による甚大な被害を受けた同地も新年を迎えた。あの日から10カ月が経過したが、市街地にはいまだに大量のガレキが残り、市民の雇用や医療など課題も多い。同市の戸羽太市長に、陸前高田の“今”と復興に向けた思いを聞いた。

» 2012年01月10日 08時00分 公開
[本宮学,ITmedia]
photo 陸前高田市内の様子(2012年1月3日撮影)。ガレキの撤去には今後2年半から3年を要するとみられている

 2011年3月11日に東北地方沿岸を襲った大津波は、岩手県陸前高田市の中心街を破壊し尽くした。3000戸以上の建物が全壊し、死者・行方不明者は2000人以上。現地では今も、積み上がったガレキの撤去作業や行方不明者の捜索が続いている。

 東日本大震災当日から約10カ月が過ぎ、被災後初となる新年を迎えた。「被災者の強い気持ちと、日本全国や世界中の皆さんからの支援のおかげでなんとか年を越すところまで頑張ることができた」と話す同市の戸羽太市長に、2012年以降の復興に向けての思いを聞いた。

「本物の絶望」を乗り越えた2011年

photo 戸羽太市長

――2011年は戸羽市長にとってどのような1年間でしたか。

戸羽市長 昨年はちょうど今ぐらいの時期に、市長選挙に立候補することから年が始まりました。当時、わたしは前市長の後継候補という立場だったので、「こういう町にしたい」という思いを必死に市民に訴えていました。しかし、2月の選挙で当選して「さあこれからだ」というところで、誰も想像すらできなかった被災をしてしまったのです。

 わたし自身もそうですし、市民全員がそうだと思いますが、一瞬にして人生をくつがえされてしまいました。ただ、3月に被災して以来、被災者の皆さんの強い気持ちと、日本全国や世界中の人々からの支援のおかげで、なんとか年を越すところまで頑張って来ることができました。

――津波によって多くの市民や市職員が命を落とし、戸羽市長もご夫人を亡くされたと聞きました。被災以来、どのような気持ちで市を率いてきたのでしょうか。

戸羽市長 わたしも人間なので、当初は絶望的なものを感じました。これまで生きてきて「絶望」という言葉は知っていましたし、学校の漢字テストで書いたこともあります。ですが、本物の絶望というものを実感したのは初めてでした。人間の力ではどうにもならない自然の脅威をまざまざと見せつけられました。

photophoto 津波は市役所の4階まで押し寄せた(写真=左)、津波に流されたJR陸前高田駅の跡地(写真=右)

 被災後1〜2週間は、頑張ろうと思っても頑張れない日々が続きました。自分の無力さをつくづく感じましたね。しかし、そうした中でも自衛隊の皆さんにいろいろとフォローしてもらったり、道なき道を通って支援に来てくれる人もいました。そういう人々のおかげで、少しずつ少しずつ気持ちが支えられてきました。

 1つの転機になったのは、昨年5月にスタートした「ハートタウンミッション」(自治体関係者やNPO、企業などで構成される被災地復興プロジェクト)です。そこでは佐賀県武雄市の樋渡(啓祐)市長や三重県松阪市の山中(光茂)市長をはじめ、多くのかたがたに声をかけていただきました。これをきっかけに、6月には渡辺さん(ワタミの渡辺美樹会長)を市の参与に迎え入れることができましたし、8月には副市長として久保田君(久保田崇 陸前高田市副市長)を迎えることもできました。

 こうした人たちに支えられながら、これまでなんとかやってきました。気持ちが萎えそうになったとき、“救世主”的にそういう人たちに来てもらえたのです。自分もそうですが、やはり被災地の人々は大変なので、2カ月か3カ月に1回でもいいのでみんなが元気になれるような情報を出していくことが必要です。こうした支援をタイムリーに発表できたことが、市民が希望が持てるきっかけにもなったのではないかと思います。

雇用、医療・福祉……課題は山積み

――震災当初と比較して、被災地の報道の数は減ってしまいました。現在の市民の状況はいかがでしょうか。

戸羽市長 避難所生活を強いられてきた人々も昨年8月に仮設住宅に移り、それ以来は落ち着いた生活を送っていると思います。ただ課題はたくさんあって、例えば仮設住宅を出た後にどのように生活していくかということや、あとはやはり雇用などが大きな問題になっています。

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