既存市場でシェア争いはしない――個性あふれる商品でコンビニやスーパーの棚を占める安曇野食品工房の三原社長ビジネスイノベーターの群像(2/2 ページ)

» 2012年01月25日 08時03分 公開
[聞き手:浅井英二、文:大井明子,ITmedia]
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既存市場の「椅子取りゲーム」には参加しない

 こうして、「自分たちが作りたいものを作りなさい、と言い続けた。親会社(丸大食品やサッポロホールディングス)と違って、既存市場で他社とシェア争いをする必要はない。お客さまが食べておいしいと思う商品、自分たちが欲しい商品を作ればいい。限られた椅子を取り合う“椅子取りゲーム”ではなく、お客様がいるところに座り心地の良い椅子をそっと寄せていくことが、わたしたちのビジネスチャンスにつながる」(三原氏)

安曇野食品工房の三原社長

 「椅子取りゲーム」ではなく「椅子寄せ」――。その根底には、大量・高速生産体制を持つ大手と既存市場で戦い価格競争に巻き込まれるのではなく、独自性の高い商品で勝負するという戦略がある。

 「他社にまねできない、“オリジナリティ”“手作り感”のある商品を提供し、お客様に選んでいただく。それが“安曇野ウェイ”。そうすることで新しい市場を創造する。それがわたしたちのやり方だ」(三原氏)

 例えば、同社の主力商品の1つである「ブラックタピオカミルクティー」。

「ミルクティーと一緒に容器に入れて保冷した状態で、タピオカの独特の食感を30日間維持する技術は、他社にまねできない。この商品はコンビニエンスストアを中心に、250円前後で販売されており、ほかの紅茶やコーヒー飲料が100円台なのに比べるとかなり高額で、高価格帯ビールのエビスよりも高い(笑)。しかし、商品の品質と独自性が認められ、市場で受け入れられている証拠だと思う」(三原氏)

若手の自由な発想で、次々生まれる新製品

 このほかにも人気の高い新製品が次々と生まれ、今や売上の半分以上を過去3年以内に発売した新商品が占めている。「みんなほんとに自由発想で商品の開発に取り組んでいる」と三原氏は笑顔を見せる。

 同社では、山梨県甲府市に置かれた商品開発研究所と東京都内に置かれたマーケティングのチームが「情報のキャッチボールをしながら」新製品のアイデアを練っていく。

 2010年度に発売し、“デザートヨーグルトの大型容器タイプ”という新たな価値を提案した「家族の贅沢カスタードバニラヨーグルト」は若手社員のアイデア。同じくカットしたぷるぷるのコーヒーゼリーとたっぷりのクリーミーソースの味わいが絶妙に絡まる「SWEET CAFE」シリーズも、若手社員のアイデアから生まれた。

 「開発、マーケティング、営業などの担当者には、世の中の市場の変化をつかむために、外に出て自分の目でたくさんのものを見て、体験するようにと言っている。食べ歩きだけでなく、本を読んだりセミナーに参加したり、一人ひとりが情報感度を高めながら、安曇野食品工房をこれからどうしていくか考えることが必要」(三原氏)

 その一方で、「変化に対応するばかりではなく、変化を作り上げるという視点が必要だ」とも言う。

「今までにない市場を作るには、それが欠かせない。特にデザート、チルド業界は目まぐるしく変化しながら伸びている。“安曇野が作る商品はおもしろいよね”“さすがだよね”と言われ続けられるよう、日々努力しなくては」(三原氏)

プロフィール:安曇野食品工房株式会社 代表取締役社長 三原 光一(みはら こういち)氏

1957年、島根県生まれ。1981年に一橋大学法学部を卒業し、サッポロビール株式会社に入社。首都圏本部流通営業部第三営業部長、首都圏本部流通営業統括部長などを経て、2009年4月より安曇野食品工房株式会社 代表取締役社長。


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