若手社員よ意見の対立を乗り越えよう。その前に、上司は価値観の違いに理解を。【最終回】伸びる会社のコミュニケーション(2/2 ページ)

» 2012年01月27日 08時00分 公開
[松丘啓司(エム・アイ・アソシエイツ),ITmedia]
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主張の内容が問題ではない

 意見の対立を避けてはいけませんが、対立することが目的でもありません。若手社員が対立を避けるのは精神的に弱いからだ、と決めつける意見も少なからず聞かれますが、精神的に強くなったからといって問題の本質が解決するわけではありません。それよりも重要なことは、意見の対立から創造的な解決策を導き出す方法を理解することです。

 価値観の違いが根本にある意見の対立は、こう着状態を引き起こします。自分の主張が相手に受け入れられるかどうかは、互いに相手の決定次第です。しかし、自分から相手の主張を受け入れることは、自分の価値観を放棄することに繋がってしまいます。そのため、対立が継続する状況が固定化してしまうのです。

 そのようなこう着状態が長く続くと、職場の雰囲気を害してしまいます。やがてコミュニケーションの断絶が生じ、チーム運営に支障を来してしまう恐れもあります。それを避けようとして、互いに譲歩したり、若手社員が上手に聞いたふりをしてその場を丸く収めたりするのはよくあることですが、それでは創造的な解決策は生まれません。

 価値観の対立を解決するための方法は、それを対立と考えるのではなく、「そこに異なる価値観があるだけだ」と思えるようになることです。少し考えれば分かると思いますが、「チームの方針を共有すること」と「行動して成果を上げること」は、もともと対立する概念ではありません。互いに自己中心で考え、自分の価値観を相手に強制しようとするから対立するのです。コミュニケーションの内容ではなく、姿勢に問題があるのです。

職場のコミュニケーションは上司次第

 つまり、相手の価値観も自分の価値観も客観視できるようになることが必要です。そのためには、相手の視点に立って自分を見る力が求められます。「相手の視点に立とう」などというと、小学校で習うことのように思えますが、実際のところ、それができていない職場が少なくないのです。

 相手の視点に立つためには、相手がどのような価値観を持っているかを推論できなければなりません。そして、相手の価値観のレンズを通して、自分の主張を見たときに、どう映るかが想像できなければなりません。自分の中に2つのレンズを並べることによって、相手の価値観も自分の価値観も客観視できるようになるのです。

 若手社員に、意見の対立を乗り越える力を身につけさせるためには、異なる価値観から何かを生み出す成功体験を積ませることが最良の方法です。その前提として、上司自身が部下の価値観を理解し、自分の価値観を客観視できる力を持たなければなりません。

 上司が部下の価値観を無視したり、自分の価値観を強制したりするコミュニケーションの中では、いつまでたっても若手の対立回避の姿勢を変えることはできず、上司は「最近の若手は……」と嘆き続けるばかりでしょう。

 このように書くと、「未熟な若手社員の価値観など受容できない」と感じる人もいるかもしれません。しかし私は、「部下の価値観を受容せよ」などと主張するつもりは毛頭ありません。受容とは、相手の価値観に賛同し、自分もそれに従うことです。上司は、部下の価値観を理解すればよいのであって、それを自分のものとして受け容れる必要はありません。

 ここにコミュニケーションの最大の誤解があるように思います。つまり、自分とコミュニケーションが混同されているのです。自分はコミュニケーションに影響を与えることができますが、コミュニケーションは自分の所有物ではありません。コミュニケーションは、そこに参加する皆で創るものです。

 重要なのはコミュニケーションをより創造的にすることであって、自分の利害のためにコミュニケーションをコントロールしようとしてはならないのです。メンバーの全員が、自分の損得や勝ち負けよりも、どうすれば職場のコミュニケーションをもっとよくできるかを優先して考えるようになれば、会社は成長を続けることができるでしょう。

 今回でこの連載は終了です。お読みいただいた大勢の方々に感謝しています。

著者プロフィール:松丘啓司(まつおかけいじ)

エム・アイ・アソシエイツ株式会社代表取締役

東京大学法学部卒業後、アクセンチュア入社。同社のヒューマンパフォーマンスサービスライン統括パートナーを経て、2003年に独立し、エム・アイ・アソシエイツ株式会社を設立。同社では、人と組織の内発的変革を支援する研修、診断、コンサルティングサービスを提供している。主な著書に、「アイデアが湧きだすコミュニケーション」「論理思考は万能ではない」「組織営業力」などがある。


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