階層構造からの脱却海外ベストセラーに学ぶ、もう1つのビジネス視点(2/4 ページ)

» 2012年02月15日 08時00分 公開
[エグゼクティブブックサマリー]
エグゼクティブブックサマリー

階段式キャリアパス

 階段式のキャリアパスは、事実上、20世紀のスタンダードとなっており、時には意図的に、また時には意図せずに企業のあり方を形づくって来ました。しかし、今、階段式キャリアパスに基づく深く根付いた思い込みが原因で、変化するビジネス環境に対応する企業の能力が制限されてしまっています。時代遅れの青写真を使って未来に投資をすることは、無駄なことです。

 組織は、今日の変化を遂げたビジネスの世界の中で、敏しょう性と高いパフォーマンスを促進する新しいモデルを取り入れる必要があります。価値を構成していた要素すら、変わってしまったからです。かつて、企業の価値創造の60%は有形資産に頼っていました。しかし、今や85%が無形資産―ブランド力、人材、そして知的財産―によって生み出されています。

 また、組織構造は20年前と比べると平均して25%ほどフラット化しています。技術の進歩やグローバリゼーション、そして、知識労働のブームによって、仕事や労働者は物理的な仕事場や固定された労働時間から解き放たれました。企業は多くの場合、チームをさまざまな地域やタイムゾーンに分散させています。また、1960年以降、非定形業務の量は定型業務よりも20%多くなりました。非定形業務の一つであるプロジェクト業務に至っては、過去20年間で40倍にも増え、コラボレーションの必要性を高めています。

 職場もまた、大きく変化しました。今日のフラット化した組織は、従来の上方移動モデルを使った人材育成に疑問を持っています。製造業とは異なり、今の経済の大半を占める知識労働やサービス業の労働者は、固定された労働時間や仕事場から解放されています。また、仕事そのものも、急速に変化しています。米国の教育相は、新しい21世紀の仕事の60%は、今の労働者が持っているスキルのわずか20%しか必要としなくなると推定しています。

 また、労働力も根本的変化を見せています。ビジネスの世界は1960年には3分の2の世帯が持っていた家族構成を基盤にしています。父親が仕事に行き、母親は子どもと家にいる形です。しかし、今このモデルを持つ家庭はわずか17%しかいません。今や女性が米世帯の40%近くの稼ぎ手であり、労働力の半分を占めています。

 また、家庭は急激に大きくなっている高齢者介護の課題を抱えています。さらに、仕事と私生活の調和は、ベビーブーム世代1の70%と新世紀世代(Y世代)2の92%にとって、今も優先順位の高い問題です。また、実際、夫婦とも仕事を持ち高齢者介護を行っている家庭の夫は、妻よりも仕事と私生活が衝突していると感じる傾向にあります。

 さらに、若い世代がモチベーションに影響を与えるライフバランスに関心を持つ一方で、高齢の労働者は雇用され続けるための柔軟な方法を求めています。このように、どのような形であれ、労働者はいまだかつて無い程多様化しています。2042年には、米国の労働者の大多数が白人以外の人種で占められるようになるでしょう。

 成功の定義すら変わってきています。これは、さまざまなトレンドが、ビジネス環境を取り返しのつかないまでに変えていることが理由です。このような途方もない変化によって、疲弊が進行する企業に生まれる問題は、非常に対処しにくくなっています。結果論として、高いパフォーマンスを生み出す職場を作り、維持する方法に関する従来の前提の終わりを告げているのです。

 「有形資産」を生み出し続ける産業であれば、従来の階段式のキャリアパスは非常に有効かつわかりやすいものであったと言えます。しかし、労働市場が変わり、モノの価値感が大きく変化をしていく現在に於いて、この方式はもはや時代遅れであり、適用が難しくなっていると言えます。

格子状のキャリアパス

 従来の出世階段と比べて、「格子状のキャリアパス」は順応性が高く、そのため、今日の職場や労働者のニーズや規範、期待の変化に対応しやすくなっています。

 数学で使う「格子」とは、あらゆる方向に無限に拡大する三次元構造のことです。実社会では、格子はあらゆる場所で目にします。例えば、庭の木製の格子アーチやエッフェル塔の金属細工、さらには現代企業の特徴であるマトリクス組織3やネットワークも格子状です。格子状のキャリアパスは、今日の企業や労働者のニーズにより適しています。

 「格子状キャリアパス」……従来の階段式のものに比べれば少々わかりにくいものかもしれません。ただし、ここに書かれているように新しい時代のキャリア構築には必要な物なのかもしれません。

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